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『蹴球ヒストリア』書評#4
好評発売中の『蹴球ヒストリア 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』は、元Jリーグ中継プロデューサーで「最強のサッカーマニア」でもある土屋雅史が、「私がどうしても話を聞きたいと思った」12人の蹴球人の歴史を紐解いた一冊だ。書評企画の第四弾は、週刊サッカーマガジン元編集長で『蹴球メガネーズ』でもお馴染みの北條聡さん。サッカーに魅入られた「同志」の作品をどう見たのか?
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この人ならば、当方のとりとめもない話にも最後まで付き合ってくれそうだな――。それが「彼」と初めて会った時の第一印象だった。彼とは《ツッチー》こと土屋雅史さんのことである。
実のところ、初めて言葉を交わしたのはいつだったのか定かではない。そうであるにもかかわらず、例の第一印象だけは鮮明に覚えているのだから不思議だ。他の人たちとは明らかに違う匂いを敏感に感じ取ったせいかもしれない。それを世間では<オタク>と呼ぶのでしょうが……。ともあれ、この人なら、サッカーへの思いの丈を吐き出せる、との確信を得るに至ったわけである。
《ワンツー》の《ツー》が抜群に上手い人
記憶に新しいのはツッチーがJ SPORTSのプロデューサーだった頃だ。かの有名な『Foot!』に何度か出演させてもらったことがある。いつだったか、欧州と南米のクラブ王者が世界一の座をかけて争うトヨタカップ(=インターコンチネンタルカップ)を語り尽くすという回でお呼びがかかった。そこで何を話してもらってもいいですよ――という甘い言葉に乗せられ、およそ需要なんかないであろう1989年大会の敗者アトレティコ・ナシオナル(コロンビア)を深堀する始末。ただ、本当に鮮烈だったのだ。革新的なゾーナルプレッシングを盾に飛ぶ鳥を落とす勢いだった最強ミランと互角に渡り合う姿が。熱弁をふるって説得を試みたつもりはないけれど、とにかく僕の<偏愛ぶり>を面白がってくれた。一事が万事、そんな具合。少なくとも、僕の知るツッチーはそんな人だ。
だから――である。あれは2021年の年末だったか、某YouTubeチャンネルで《俺たちのアフリカン~世界を驚かせた男たち~》と題する企画を実施するにあたり、対談の相手として声をかけたのがツッチーだった。僕の与太話に1時間以上も付き合ってくれる人など彼以外に考えられなかったからだ。実はナイジェリア好きというのは知っていたけれど、それだけで気軽に声をかけるわけにもいかなかった。何しろ、アフリカ勢がアウトサイダーとの位置づけから脱した1980年代の躍進を出発点にしながら縦横に話を進める企画である。しかも脱線だらけ。知識はもとより、興味(関心)がなければ、ただただ苦痛な時間でしかない。でもツッチーなら、きっと面白がってくれるんじゃないか。そう思ったわけである。
サッカーにたとえれば《壁》として立ち回るのが抜群に上手い人だ。いわゆる壁パスの壁、ワンツーで言えば<ツー>のほう。とにかく、味方(対話の相手)のパスを受けて戻す。活字にすれば何でもないが、その実は奥が深い。少しでも受け方や戻し方を誤れば、敵の防御ラインをブレイクするような壁パスは成り立たないからである。1対1の対話も同じだろう。……
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Profile
北條 聡
1968年生まれ。栃木県出身。早大政経学部卒。サッカー専門誌編集長を経て、2013年からフリーランスに。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』の一員として活動中。