イングランド女子代表チームが、今月20日に開幕する女子ワールドカップで初の世界一を目指す。2大会連続ベスト4の彼女たちは、女王に輝く準備ができているようだ。
2大会連続の準決勝敗退
なでしこジャパンも出場する今大会で、イングランドの主軸の1人となるのが代表105キャップを誇る右SBルーシー・ブロンズ(31歳)だ。2013年に代表デビューを果たして以降、彼女は歓喜も失意も味わってきた。イングランド女子代表は、2015年の女子ワールドカップで初めて決勝トーナメントでの勝利を収めてベスト8の壁を突破。準々決勝のカナダ戦ではブロンズが決勝ゴールを決めて勝ち上がったが、準決勝で日本の前に敗れてベスト4に終わった。4年前の前回2019年大会でもチームは順調に勝ち上がりながら、準決勝でアメリカに敗れて涙をのんだ。
ファイナルまであと一歩のところで悔しい思いを経験したブロンズは、ワールドカップ決勝の試合を一度も見ていないという。「(2019年の準決勝の)アメリカ戦はVARの判定とPK失敗だけの差だった。本当に僅差だったわ。私たちはいつも準決勝で負けているので、女子ワールドカップ決勝の試合は一度も見たことがないわ。見たくないの」とブロンズは英紙『The Guardian』に語る。「もちろん決勝の結果やゴールは知っているけど、実際の試合は見たことがないし、喜んでいる優勝チームの画像も見ていないわ」
そんな失意を経験したイングランド女子チームだが、地元で開催された昨年の女子EUROでは全勝で初優勝を果たした。2021年からイングランドを率いるオランダ人指揮官のサリナ・ビーフマン監督がもたらした“メンタリティ”が評価されたが、ブロンズによると10年前から徐々に積み上げてきた結果だという。
「多くの人は『サリナがイングランドを変えた』と言ったけど、私たちは何年もかけて積み上げてきたの。アメリカ、フランス、ドイツに初めて勝ったり、決勝トーナメントで初勝利を経験したり、いろいろな最初の一歩を踏んできた。もちろん優勝の経験は大きいけど、それまでにたくさんの節目の経験をしてメンタリティを変えてきたのよ」
バルセロナでの経験が生きる
ブロンズは、代表でもチームメイトのMFキーラ・ウォルシュと共に2022年からバルセロナ・フェミニに所属しており、昨季はリーグ優勝のほか女子チャンピオンズリーグでも頂点に立った。バルセロナでの経験も代表チームに生きていると話す。
「バルセロナの選手はみんながボールを持ちたがるので、これまで以上に私には守備面の責任が生じているわ。だからフットボールの見解が少し変わった。プレースタイルだけでなく、世界最高峰の選手たちとプレーすることで経験できる周囲の期待や自分たちが求めるクオリティなどがある。私とキーラは、イングランド代表の練習のスタンダードも上げることができたと思う」
イングランド代表はキャプテンのCBリア・ウィリアムソンをケガで欠くが、ブロンズは心配していない。「リアの不在は大きいけど、チームが大幅に変わることはない。既にプレー経験のある他のメンバーを選ぶだけ。(代わりに出場予定のアレックス・グリーンウッドとミリー・ブライトは)完璧に機能する」
今回の女子ワールドカップでイングランド女子代表はハイチ、デンマーク、中国と同じグループDに入っている。実力差を考えるとグループステージ突破は濃厚だろう。果たして彼女たちは初の世界一へ上り詰めることができるのか? 今夏は、なでしこジャパンと共にイングランド女子の戦いにも注目したい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。