『もえるバトレニ』発売記念企画 #3
5月31日刊行の『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』は、W杯2大会連続でメダルを獲得した“バトレニ”(「炎の男たち」を意味するクロアチア代表の愛称)の強さの秘密、そして彼らを長年取材してきた長束恭行さんのクロアチア愛が詰まった渾身の一冊だ。発売を記念した書評連載の3人目は、長束さんとの関係も深い写真家・ノンフィクションライターの宇都宮徹壱さん。同じ書き手目線で見ると、このサッカー本は成り立ちそのものから面白いという。
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マニアックなテーマのサッカー本。けれども、すっと読めてしまう。というより、グイグイ引き込まれていって、ページをめくるスピードがどんどん速くなってゆく。『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(以下『もえバト』)は、久々に出会った、熱量満載なサッカー本である。
著者の長束恭行さんは、日本におけるクロアチアのサッカー(現地の言葉で「ノゴメット」)の第一人者。日本語で書かれた現地の情報のほとんどすべてが、長束さんが発信したものである。そんな彼が満を持して上梓したのが本書。2018年のW杯ロシア大会で準優勝し、昨年のカタール大会で3位となった、ルカ・モドリッチ率いる(監督のズラトコ・ダリッチではない)クロアチア代表の物語である。
この作品について、本稿は単なる書評からあえて逸脱して「ブックライターとしての視点」から論じてみることにしたい。というのも私自身、ノンフィクションライターとしての集大成となる新著の執筆に、ちょうどかかりっきりになっているからだ。今まさに書籍を作っている立場から見ると、本書の成り立ちそのものが実に興味深く感じられてならない。そんなわけで、この『もえバト』について、書き手目線で因数分解していくことにしよう。
なぜ、この日本で「クロアチアのノンフィクション」が成立したのか?
まず、本書の構成。「まえがき」と「あとがき」との間に4つの章がある。第1章が、モドリッチが若手として参加していたEURO2008から、カタール大会が開催される2022年までの足跡。第2章が、3位に輝いたカタール大会のストーリー。第3章が、カタール大会に出場したクロアチア代表の知られざる面々のプロフィール。そして第4章では、人口400万人にも満たないクロアチアが、W杯で好成績を残している理由を様々な角度から考察している。
2022年のW杯で長束さんは、初戦のモロッコ戦から3位決定戦のモロッコ戦までの7試合、すべてのレビュー原稿をWEB版footballistaに執筆している。この時の熱量が、本書の背骨となっているのは間違いない。……
Profile
宇都宮 徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。