ブラジル代表、新監督決定の行方と選手たちの思い
ブラジル代表が6月のFIFA国際Aマッチデーで親善試合を戦い、バルセロナでの1試合目ギニア戦を4-1で快勝、リスボンでの2試合目セネガル戦は2-4という衝撃的な敗戦で終えた。
この結果が今後の流れにどう関わってくるかはCBF(ブラジルサッカー連盟)の発表を待たなければならないが、この期間、日々情報が飛び交っていたのが、新監督問題の行方だ。選手たちも、今回で2度目の代行監督となったU-20代表監督ラモン・メネーゼスも、報道陣から質問され続けていた。
繰り返される議論
CBFがレアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督を最優先の候補として交渉し、詳細はまだ決まっていないとは言え、2024年に就任することが確実となった、というのが現在報道されている情報だ。ただ、クラブとの契約期間が同年6月まで成立しており、最後の6カ月を切るまでは、いかなる交渉も正式にすることはできないという条件がある。そのため、すべては舞台裏での進行となり、発表は1月になる、とも言われている。
まだ不透明なことが多く、ブラジルメディアでは、コメンテーターや代表OBによる議論が繰り返されている。
「CBF会長が“Aプラン”と公言しているアンチェロッティを、例えば1年も待つのなら、代行監督は誰でも良いというわけではない。しかし、“Bプラン”と言われた監督たちが、期限付き代行など引き受けるわけがない」
「そうなると、選択肢はCBFと契約のあるラモンしかいない。ただ、ラモンで9月から南米予選をスタートし、結果が出なかった場合は? 来年はコパ・アメリカもあるのに」
「ラモンが代行を続けるとなると、彼が手掛けるはずだった五輪代表の準備を妨げるのでは? 前人未到の五輪3連覇を目指すのも大事なことだ」
「移行期間として、アンチェロッティの推薦する人物が、ラモンとの両輪体制で指揮を執るアイデアも出ている」
「そもそもアンチェロッティにこだわって1年間も代行監督で続行するなんて、どうかしている」
「その前に、アンチェロッティとはまだ給料が決まっていないらしいから、何も決まっていないのも同然だ」
「いや、アンチェロッティ自身の“やりたい”という意志が確認できたなら、あとは詳細を詰めるだけだ」
4人のベテランがCBF会長と会談
リシャーリソン(トッテナム)やロドリゴ(Rマドリー)、アレックス・テレス(セビージャ)のように、代表での経歴的に中堅と言える選手たちは、戸惑いを口にしていた。
「W杯から半年が過ぎた今も次期監督が決まっていないというのは、普通の状況ではない。4年間はあっという間だから、できるだけ早く、正式な監督とスタートを切れるに越したことはない。でも、僕らは今ある状況を受け入れて、できる限りのことをやっていく」
今回のスペイン遠征中、アンチェロッティとの面会を終えたCBFのエジナウド・ホドリゲス会長も代表チームに合流した。練習場に現れた際の笑顔からは、面会で一定の満足を得られたことがうかがえた。
さらに、会長は新監督に関する今後の方針について、カゼミーロ(マンチェスター・ユナイテッド)、マルキーニョス(パリ・サンジェルマン)、アリソン(リバプール)、ダニーロ(ユベントス)という、4人の代表経験の豊富な選手たちと話し合いを行った。
その会議を提案したのはダニーロだ。彼は「会長は他人の意見をとても良く聞く人だ。そして、ブラジル代表に関していつも存在感があり積極的。女子代表や年代別代表が良くなるよう、素晴らしい変更もしてきた」と、会長の姿勢への信頼を語った上で、こう説明した。
「僕ら選手は何かを決めたり、何かを正しい、間違っていると言ったりしたいわけじゃない。もちろん同意できないこともあるだろう。それでも僕らの役割は、会長が最良の決断を下すためにサポートし、彼がこうと決めた瞬間から、それができるだけ良いものになるように取り組むことだ」
「僕らが話したことの一つは、長年の間、僕らの仕事は高いレベルに達していたということ。重要なのは、後戻りしてゼロから始めるのではなく、今後も前に進んでいくことだ。Rマドリーを例に挙げてもいい。毎年、少しずつ選手を入れ替えて強化を成功させた。強固な基盤を維持して、そこに修正を加えながら進化させていくのは自然なことだ」
「ブラジル代表は僕らに多くを与えてくれる。名誉や国際的な認知、多くの喜び。だから、僕らのような経験豊富な選手たちは、自分が代表で得られたことにお返しをしなければならないんだ。今はラモンが前線に立っている。彼は素晴らしいプロフェッショナルだ。彼が代表の指揮を執るために、僕らは全面的にサポートしている。そして、初めてチャンスをつかみつつある選手たちのためにも、安定した基盤を維持できるよう頑張っていかなければならない」
「サッカーでは勝つか、学ぶか」
セネガルに敗れて今回の遠征を終えた後も、ダニーロは改めて意見を語った。
「ブラジルでは今回のような敗戦は許されない。だけど、チームには新しく入ってきた選手たちがいるし、戦術システムも変わった。シーズンオフで休暇に入ってから、代表でのプレーに戻ってきた選手たちもいる。この1試合ですべてを評価するのは注意が必要だ」
正式な監督が決まっていない不安定な状況において、1敗で右往左往するよりも、自分たちベテラン選手がサポートするから、今いるラモンと継続性のある仕事をしていきたい、という姿勢だ。
そして、今後に向けてさらに大きな役割を担っていくか否かの岐路に立つラモンの、遠征終了にあたっての言葉はこういうものだった。
「結果で言えば、我われは敗戦に悔しい思いでスタジアムを去ることになった。ただ、サッカーでは勝つか、学ぶかだ。我われは多くを学びながら去る。それもチームにとっては重要なことだ。これから先、多くの挑戦に立ち向かうのだから。W杯に到達するまでには、南米予選もコパ・アメリカもある。その道のりを、学びながら進んでいくんだ」
自分自身の今後についても触れた。
「これからも必要とされるなら、私は準備ができている。大事なのは勇気を持つことだよ。勇気は私のパーソナリティの一部。私の目的はいつでも代表を手助けすることだ」
目の前の戦いについては常に力強く語る彼だが、自分の望みを口にするのは珍しい。代行監督という立場であっても、選手たちと力を合わせ、この挑戦を続けたいという彼の思いが感じられた。
Photos: Joilson Marconne/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。