イングランドのサポーターはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が嫌いになったようだ。
今年3~4月にかけてイングランドのフットボール・サポーターズ協会(FSA)が全国規模のアンケートを行ったところ、およそ三分の二のサポーターがVARの使用に反対しているという。
なければ不満、あっても不満
9645名を対象に行われたオンラインのアンケートによると、実に63.3%の人がVARに反対したそうだ。さらに、普段からスタジアムに足を運ぶサポーターたちは、79.1%の人がVARについて「悪い」か「非常に悪い」経験をしたと答えたそうだ。TVで観戦するファンも65.4%が同様の回答をした。スタジアムでVARについて「良い」もしくは「非常に良い」経験だったと答えた人は、全体の5.5%しかいなかったというのだ。
前回、FSAが全国規模のアンケートを行ったのは2017年、VARが導入される以前のことだった。その時は、多くの人が審判の判定に不満を感じていたようで、74.6%の人がVARの導入に賛同していた。そしてプレミアリーグでは2019-20シーズンからVARが導入され、以降3シーズンに渡って運用されてきたが、誤審問題が解決すると期待していたサポーターが満足するような結果は得られていないようだ。
確かにVARは様々な問題を露呈してきた。最初はミリ単位でオフサイドを取ったことで反感を買い、その後もVAR担当者による人為的ミスなどがあり、結局のところは誤審や物議をかもす判定が起きているのだ。その結果、今月21日に発表されたアンケート結果によると、VARを「完全に」もしくは「それなりに」支持すると答えた人は26.8%に留まったという。
VARに対する一番の不満は、判定が確定するまでに時間がかかり過ぎる点だという。実に91.9%の人が「時間がかかり過ぎる」とアンケートで回答している。さらに判定に関する審判員同士のやり取りにも懐疑的なファンが多いようで、80%のサポーターが主審とVAR担当者の会話をサポーターに公開すべきだと主張している。
試合観戦の機会も減少
VARもそうなのだが、今回のアンケートではもっと心配な事案があった。それはサポーターのフットボールに対する “コミットメント”が減少していることである。経済情勢の影響を受けて実に40.1%のサポーターがサッカーにかけるお金が減っていると答えたそうだ。さらに、生活費が上がり続けているせいで、21.7%の人が試合を観戦に行く回数が減ったと回答した。
プレミアリーグではアウェイゲームのチケット代は最高で30ポンド(約5500円)という上限が設けられているが、2部以下のリーグでも似たような規制を導入すべきだと88.2%の人が答えたそうだ。
果たして、VARは今後サポーターの信頼を回復することができるのか。そして、サポーターがもっと自由にお金を使えるようになる時代は来るのだろうか。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。