「未来」に向けて、残る7戦を無意味な消化試合にしてはならない。4月2日にポッター監督を解任、そしてCL敗退で欧州戦のない来季が濃厚となったチェルシーの現在地、進むべき道とは――。
迷走を招いた40人近いスカッド
4月18日に行われたCL準々決勝第2レグ後半の80分をもって、チェルシーの2022-23シーズンは終わった。レアル・マドリーが合計スコアを4-0とする駄目押しの2点目を奪った瞬間。同時にスタンフォードブリッジを後にし始めたチェルシーファンは、今季優勝チームとしての来季CL参戦という最後の望みを絶たれた。クラブレジェンドのフランク・ランパードが、2週間ほど前に暫定監督として戻ったチームに抱いたかすかな希望が消滅した。プレミアリーグでの順位は、31試合を消化してトップ4圏内まで17ポイントの11位(10勝9分12敗・30得点33失点)。欧州2番手の大会であるヨーロッパリーグも、3番手のヨーロッパカンファレンスリーグも、残るリーグ戦7試合で10ポイント以上の差を詰めなければ出場圏内には届かない。欧州戦のない来季が濃厚となった。
しかしながら、残り試合が自動的に無意味な消化試合となってしまうわけではない。そうしてはならない。特に、一昨季には通算2度目のCL優勝を成し遂げた昨季プレミア3位チームを低迷へと導く結果となった新経営陣は。
前オーナー時代にも欧州への出場権を失ったことはあった。第2期ジョゼ・モウリーニョ体制下で、指揮官の鞭が入り過ぎたチームの心が折れた2015-16シーズン。ただし、堅守ベースのアントニオ・コンテを監督に迎えた翌2016-17シーズンにプレミア王座を奪回した当時のチームには、その良し悪しはともかく、オーナーの第一要求である結果を残す上で得意とするスタイルと、その戦い方で力を発揮できる主戦力を備えていた。モウリーニョのラストゲームとなった2015年12月のリーグ戦と、コンテ体制下での優勝が決まった2017年5月のリーグ戦を見ても、ピッチに立った各14人のうち9人が同じ顔ぶれだ。
その点、昨夏と今冬に計14人が1軍に加わった今季のチェルシーは、監督でさえベストメンバーを見極められない状態にある。5年契約での誕生が7カ月で終わったグレアム・ポッター体制は、1カ月間に6人が加入した今年1月を境に監督の意図するサッカーが不透明になっていった。急転直下で後を受けたランパードは、采配4試合目だったホームでのレアル・マドリー戦が4戦連続のシステム変更となったのも無理はない。ポジションが重なる駒が多いFW兼ウイングをはじめ、カラム・ハドソン・オドイ(現レバークーゼン)やロメル・ルカク(現インテル)といったレンタル放出組を含めれば40人近い選手数は、誰が監督でも多過ぎる。残る7試合は、スカッドのスリム化とチェルシーでの未来がある顔ぶれの自信回復に活用されるべきだろう。
真価を見せろ?方針を見せろ!
早々に次期正監督も決まれば理想的だ。候補者にはユリアン・ナーゲルスマン、ルイス・エンリケ、マウリシオ・ポチェッティーノといった“就職活動組”も含まれる。とはいえ、焦りだけは禁物でもある。長期的な「協業者」には不適当だとして昨年9月にトーマス・トゥヘル(現バイエルン)を解任し、続くポッターは長期的な「指揮官」としての不安を理由に首を切った新フロント陣営は、新時代の新ポリシーとして歓迎できた「長期展望」が、自らをオーナーとして売り込むためのセールストークでも、実現できない絵に描いた餅でもないことを次の監督人事で実証する必要がある。
代表格のトッド・ベーリーは、4月15日のブライトン戦後にチームの前で移籍金に見合う「真価を見せろ」と迫ったようだが、明確なスタイルや強さ、挙げ句の果てには正監督まで無いもの尽くしのチェルシーを目の当たりにしているファンは、クラブ買収時の発言に沿った「方針を見せろ」と新オーナーに言いたいに違いない。絶対的な英雄であるランパードがベンチ前にいなければ、レアル・マドリー戦第2レグのホーム観衆は敵が先制した58分の時点で席を立ち始めていても不思議ではなかった。地元サポーターの間では「オーナーを解任したい」との声が確実に増えている。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。