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「疑問符の付くデビュー」は新監督選びを急いだ弊害?デ・ラ・フエンテ体制初陣2戦から分析する新生スペイン代表の試行錯誤

2023.04.04

08年から12年にかけて2度のEURO制覇と初のW杯優勝を成し遂げたスペイン代表だが、以降の国際舞台では沈黙中。カタールW杯でも3大会連続でベスト8に手が届かなかったのが記憶に新しい。そんな“ラ・ロハ”(スペイン代表の愛称)の再建を託されたのは、ルイス・デ・ラ・フエンテ新監督。初陣となった3月のEURO2024予選2試合をもとに新体制の行方をスペイン在住の木村浩嗣さんに展望してもらった。

 ルイス・デ・ラ・フエンテ監督率いる新生スペインはEURO2024予選2試合を戦って、対ノルウェーでは勝利(3-0)、対スコットランドでは敗戦(2-0)。ノルウェー戦は83分までは1点差で“アーリング・ホーランドがいればどうなったことか”と思えるほどチャンスを作られた“見せかけの大勝劇”だったし、1984年から負けていなかったスコットランドにも完敗した。一言で言えば、「疑問符の付くデビュー」だった。

 とはいえ、次の大会から本戦出場枠が拡大され、53チームのうち23チームが本戦に進む緩い予選になったので、新監督の周辺はさほど騒がしくなってはいない。試合順が入れ替わって勝利で終わっていたら、後味がもう少し良かったのだろうが……。いずれにせよ、次の試合、6月のネーションズリーグ準決勝イタリア戦まで、新監督、新チームの評価は疑問符が付いたまま持ち越しとなった。

 招集初日と試合前後の軽い練習を除くと、今回、本格的な練習は4回しかできていない。これで新チームの出来をうんぬんするのは本当に可哀想だと思う。「采配も戦術もまだ模索中」という言葉がピッタリだったが、以下では今回の2試合でわかったことを書いていこう。

選考は「セレクショナドール」に戻った模範解答

 招集メンバー26人のうち、15人がカタールW杯を経験していない新顔だった。FWではイアゴ・アスパス、ジェラール・モレノ(ケガで辞退)、ホセル、ボルハ・イグレシアス、MFではミケル・メリーノ、ダニ・セバージョス、マルティン・スビメンディ、DFではナチョ、ダビド・ガルシアと、ルイス・エンリケ時代に“なぜ呼ばれない?”と騒がれた顔ぶれはほぼ全員入った。良く言えばバラエティに富んで偏りのない、悪く言えば八方美人的で狙いがわかりにくい招集だったが、ファンやメディアに歓迎されたのは間違いがない。招集に本来、正解も不正解もないが、今現在調子が良く結果を出している者を選ぶのは、ある意味「模範解答」と言っていい。

 スペインで代表監督は「セレクショナドール」と呼ばれる。セレクトをする人、選ぶ人という意味で、クラブ監督の「エントレナドール」、練習させる人とは区別される。ルイス・エンリケFCを作った前監督は後者だったが、新監督は前者。本来の姿に戻ったわけだ。

ノルウェーとの初陣を3-0の快勝で終えたルイス・デ・ラ・フエンテ新監督

先発8人入れ替えで見えた「新監督の迷い」

 前監督はプランAを至高のレベルまで高めることが勝利の近道と考えたが、新監督はプランB、プランCを用意することが近道と考えている。

 プランBはノルウェー戦で早速、効果を発揮した。81分に投入されたホセルが84分、85分と連続ゴールを決めたのだ。長身CFの頭へロングボールを入れる、というのは前監督のフィロソフィーに合わず存在しなかったが、新監督はこの緊急措置に頼って試合を決めた。ホセルの他、交代要員として入ったセバージョス、ミケル・オヤルサバル、ジェレミ・ピノも押されっ放しだった試合の流れを変えた。

 だが、このプランBをスコットランド戦のプランAとしたのだがこちらは成功しなかった。

 この試合、デ・ラ・フエンテは8人先発メンバーを入れ替える大胆な策に出た。先発イレブンにはホセル、セバージョス、オヤルサバル、ジェレミの名もあった。“前の試合で好調なものを次の試合で使う”というのはある意味当然なことで、連戦では大幅なローテーションをする、というのはU-21監督時代からよくやっているルイス・デ・ラ・フエンテの特徴であるらしい。……

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スペイン代表ルイス・デ・ラ・フエンテ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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