マンチェスター・ユナイテッドが冬の移籍市場で獲得したマルセル・ザビツァー。ケガ人が相次いだことによる半年レンタルの駆け込み補強であったが、29歳のオーストリア代表MFは初参戦のイングランドで即座にフィットし、可能性を感じさせるパフォーマンスを披露している。
「暗殺者のピストル」と称されたドイツ時代
今冬の移籍市場最終日にマルセル・ザビツァーのバイエルン・ミュンヘンからマンチェスター・ユナイテッドへのローン移籍が決まった。1月にドニー・ファン・デ・ベークとクリスティアン・エリクセンが負傷したことを受け、ユナイテッドは急遽代役の確保に動いた。
フットボールディレクターのジョン・マータフやデータサイエンスディレクターのドミニク・ジョーダンらはポテンシャルのある獲得候補を10人リストアップ。昨夏の選手獲得で多くの支出を強いられたためにCEOのリチャード・アーノルドが厳しい制約を課す中、バイエルンで出場機会が限られていたザビツァーに白羽の矢が立てられた。
ザビツァーのことは「ザルツブルク時代から知っている」と語るエリック・テン・ハフ監督と、RBライプツィヒ時代から彼の獲得に興味を持っていたクラブのどちらも、デッドラインデーに実現した質の高い補強に満足しているようだった。それから2カ月弱が経った今、彼のドイツ時代とマンチェスターでのここまでのパフォーマンスを振り返り、最後に今季残りの起用法について考察したい。
2014年に母国オーストリアのラピード・ウィーンから当時ブンデスリーガ2部のRBライプツィヒに加入(14-15シーズンはRBザルツブルクにローン移籍)したザビツァーは、1.5列目や2列目を主戦場とするアタッカーだった。セカンドトップやトップ下、あるいは右サイドの選手として、守備時には前線からプレッシングのスイッチを入れ、攻撃ではボール奪取からの素早い切り替えでゴールに迫り、15-16シーズンにはクラブの1部昇格に大きく貢献。
トップリーグで最初のシーズンも、8ゴール4アシストと多くの得点に絡みチームを牽引した。当時のスポーツディレクターであるラルフ・ラングニックは、効率的な得点能力を見せるザビツァーを「暗殺者のピストル」と形容している。
ドイツ参戦後の数シーズンでブンデスリーガでも有数のアタッカーとしての地位を築いたザビツァーにとって、サッカー選手としての転機が一つが訪れる。ユリアン・ナーゲルスマンのRBライプツィヒ監督就任だ。
CLにも出場した19-20シーズン、より攻撃的なナーゲルスマンのスタイルの恩恵を受け、ザビツァーは欧州の舞台でも高い得点能力を発揮。主に右サイドのハーフスペースを起点に、コンビネーションから裏への飛び出しや精度の高いクロス、強力なロングシュートと攻撃にアクセントを加えられる彼は相手チームの脅威になり続けた。
試合ごとに、あるいは試合中にフォーメーションを変える監督に合わせて細かくポジションと役割を変えながら、攻撃の中心としてシンプルかつ速く効果的なプレーで自身のサッカーを体現するザビツァーにはナーゲルスマンも称賛を惜しまなかった。
「どのポジションで起用しようと、ザビ(ザビツァーの愛称)はいつも私が与えた仕事を実践しようとトライするんだ」
ナーゲルスマンの下、点を取れる“6番”に
そんなナーゲルスマンは、2020年初め頃からザビツァーに新たな役割を与えた。ディエゴ・デンメ(現ナポリ)の移籍に伴って空いた“6番”のポジションにオーストリア人アタッカーを起用したのだ。……
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cologne_note
ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note