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今冬チェルシーに移籍した逸材も参戦。タレント揃いの若きブラジル代表がU-20南米選手権に臨む

2023.01.19

 元ブラジル代表で、東京ヴェルディでもプレーしたラモン・メネーゼス監督率いるU-20ブラジル代表が、南米選手権に向けた10日間の準備合宿を打ち上げて開催地コロンビアに旅立った。南米10カ国が集い、1月19日から2月12日にかけて行なわれるこの大会は南米のタイトルを争うだけでなく、上位4チームが今年のU-20W杯(5、6月にインドネシアで開催)出場権を獲得する。選手たちにとっては国際舞台へのチャンスであり、メディアやサポーターにとっても、新星たちをより良く知る絶好の機会だ。

 これを書いている時点で背番号は公式発表されていないが、練習を見た中では、9番を担うのは、ビットー・ホッキ(アトレチコ・パラナエンセ)と思われる。現在17歳の彼は昨年、すでにプロとしてクラブの南米最高峰を競うコパ・リベルタドーレスに7試合出場。2ゴール2アシストでチームの決勝進出に貢献するとともに、自身も大会ベストイレブンに選ばれた。両足が使えて、パワーとスピードを兼ね備えた選手だ。

 「この好調を代表にも持ち込みたい」と語る彼は、合宿中の2つの練習試合でも、きっちり1ゴールずつ決めている。

練習試合ボウタヘドンダ戦で背番号9ビットー・ホッキ(左から2番目)のゴールを祝う選手たち(左からアレキサンデー、ホッキ、ステーニオ、ホベルチ)

 18歳のMFギリェルメ・ビロはコリンチャンス期待の若手の1人だ。今月2日に開幕した、プロへの登竜門として知られるU-20コパ・サンパウロで初戦を戦った直後に、追加招集を受けて急きょ代表に合流した。U-15代表時代は左SBだったが、その後MFに転向。ユーティリティプレーヤーとして急成長している上に、得点力もある。

 「ラモンは選手時代、今の僕と同じポジションで、僕が身につけようとしていることを高いレベルでやっていた。ボールを持っている時、持っていない時、どうポジショニングするかなどを彼から学んでいる」

練習中の背番号10候補ギリェルメ・ビロ

 両SBも興味深い。右のアルトゥール(アメリカ・ミネイロ)は小柄でスピードがあり、攻撃参加が得意。典型的なブラジルのSBだ。左のパトリッキ(サンパウロ)は好守に広い視野を持ち、その優れた戦術眼でモダンなタイプだと言われる。

練習試合後に手ごたえと抱負を語る右SBアルトゥール

 こうした選手たちにはすでに世界中のクラブから打診などが相次ぎ、アルトゥールには日本のクラブからの接触もあったと報道されている。招集時点で唯一のヨーロッパ組だったのは、FWサビオ(PSV)。またCBホベルチ(コリンチャンス)はゼニトへの移籍が決まり、この大会後に直行することになった。

 今月7日にチェルシーへの移籍が決まったばかりのMFアンドレイ・サントスは現地での労働ビザの手続きなどがあったものの、チームのコロンビアへの出発2日前に合流できた。バスコで育ちプロになった18歳のMFは、ボランチとしての守備力はもちろん、攻撃力にも長けている。

チェルシーでの移籍関連の手続きを終えてチームに合流したアンドレイ・サントス

相次ぐ招集辞退にも指揮官は動じず

 下部年代代表の招集には、FIFAのルールにより、クラブが選手を送り出す義務がないため、監督が望む通りのメンバーをそろえにくいという問題がある。今回も、先月レアル・マドリーと契約を交わしたばかりのMFエンドリッキ(パルメイラス)をはじめ、合計8人の選手についてクラブが辞退を申し出る事態となった。

 選手が代表で活躍するメリットは、クラブにとって大きいものの、今月中旬には各州選手権が開幕しているため、すでにプロチームで活躍している選手を失いなくない、というのがその理由だ。特にFWや攻撃的MFに関してその傾向が強い。

 下部年代代表の総合コーディネーターである元ブラジル代表のブランコは「クラブにはそれぞれに考え方がある。この問題を改善するには、FIFAのルールを変えるしかない」と語り、クラブへの恨み言は控えている。

 クラブとの交渉に際し、基本的に「選手を出さない? OK。それなら他にも良い選手たちがいる」という姿勢でブランコが臨むというのは、代表関係者の言葉だ。ただ、最終的な追加メンバーの発表がチーム集合の前日となるなど、実際は対応に奔走したらしい。

 一方、ラモンは昨年3月のU-20代表監督就任以来、2022年に行なわれた2つの国際トーナメントと5つの親善試合で合計52人もの選手を招集し、手元で確認してきた。そこで合計11戦8勝1分2敗と手ごたえを得てきており「この世代はタレントが豊富。僕は彼らを信頼しているし、このチームで戦うことに自信を持っている」と、招集選手の大幅な入れ替えにも前向きなコメントを積極的に発信している。

 こうして集合した選手たちは、連日、ハードでインテンシブな準備を行った。実際、ラモンの指導の厳しさは定評になりつつある。合宿中、午前午後の2部練習の日も多く、さらに居残り練習にも取り組む。セットプレーのキッカーのグループ指導はもちろん、いずれのポジションでもアシスタントコーチたちと分担して、マンツーマンでじっくり技術指導もしている。

 戦術練習やポジショニングの確認では、選手を怒鳴り、腕を引っ張り、押し出し、一見すると鬼監督のようだが、いざボールが転がり始めると、選手たちには伸び伸びとプレーさせる。ピッチを離れると、陽気な兄貴分のように笑顔で接する様子もうかがえる。

 ブラジルの初戦は現地時間19日のペルー戦。世界を目指す戦いは目前に迫っている。

Photos: Rafael Ribeiro / CBF, Kiyomi Fujiwara

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U-20ブラジル代表U-20南米選手権

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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