ベストゴールに選出。リシャーリソン、ブラジル代表の背番号9として示した矜持
ブラジル代表の背番号9としてカタールで戦ったリシャーリソンのゴールが、FIFAワールドカップ2022のベストゴールに選ばれた。大会全体で史上最多の172ゴールが生まれた中、ファン投票トップとなったのが、グループリーグ第1節セルビア戦で決めた73分のボレーシュートだった。
ビニシウス・ジュニオールの左サイドからのパスを、ゴール前にいた彼が左足でトラップし、浮かせたボールをオーバーヘッド気味に右足で蹴り込んだ。
この試合、2得点を決めてブラジル2-0の勝利に貢献したリシャーリソンは、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれて記者会見に臨み、笑顔で語っていた。
「フルミネンセでもエバートンでも似たようなゴールを決めたことがあるんだけど、今回はW杯。しかも、僕らにとって難しかった試合で、僕の経歴の中で最も美しいゴールの1つを決めることができた」
報道陣からの「あなたがなぜブラジルの背番号9であるのかを証明するようなゴールでしたね」という言葉には、決意表明で返した。
「一緒にプレーするチームメイトたちの素晴らしさに生かされている。ハーフタイムに言ったんだ。『ゴールを決めるためには、僕にはもっとボールが必要なんだ』とね。そのボールが来た時、僕は準備ができていて、ゴールネットを揺らすことができた。チームは美しい勝利を挙げることができて、素晴らしい夜になった。この先6試合もこうして戦っていく。僕らの目標を達成するために」
韓国戦でもファインゴール
W杯の前までにフル代表として38試合を戦い、17ゴールを決めてきたリシャーリソンは、母国ブラジルでも非常に人気が高い。東京五輪では得点王の活躍で金メダル獲得の原動力の1人となった。
ピッチに立てば毎試合、必ずゴールかアシストで貢献するその実力と、ゴール後に見せるユニークな「鳩のダンス」、ひょうひょうとした風情と率直な発言、危険なスラムから出てきた生い立ち、継続的な慈善活動などピッチの内外で愛される様々な理由がある。
第2節スイス戦の試合前、場内アナウンスでスタメンが紹介された時は、観客席の声援の大きさと盛り上がりをビニシウスと分け合ったほどだ。しかし、試合後の本人にそれを聞くと、非常に謙虚だった。
「すごく幸せだよ。でも、今日は僕らのアイドル、ネイマールがケガで不在だったから、その分の声援を僕にくれたんだと思う。彼がすぐに回復して、この後の試合に出場できることを願っているよ」
ラウンド16の韓国戦で決めたゴールも、彼らしい強さと技術力、スピードが発揮され、大会ベストゴールの候補に入っていた。2点リードで迎えた29分のことだ。
ひとたびボールを持つと、相手選手に当たられても、3人に囲まれても、そのボールをヘッドと右足で巧みにコントロールして逃さない。最後はマルキーニョス、チアゴ・シウバと繋いだボールを再びゴール前で受けると、相手を振り切って左足で蹴り込んだ。
“9番のトラウマ”を払拭
W杯開幕直前の記者会見ではキャラクターを全開させ、会見場が大いに盛り上がった。外国人記者が英語で質問し始めた時は、広報に同時通訳の聞けるヘッドフォンを勧められて、ニッコリ笑いながら「I speak English, my friend!」と記者に一言。イングランドでプレーして6年目だから当然なのだろうが、彼が言えばワッと笑いが起こる。
その彼が凛とした表情になったのが、背番号9について聞かれた時だ。ブラジルのメディアやサポーターにとって、W杯での背番号9はトラウマになりつつあった。2014年に背番号9を身につけたフレッジは大会中1ゴールに終わり、2018年のガブリエウ・ジェズスはまさかのノーゴール。
そのため「ブラジルにはもう背番号9が存在しないのか」と嘆いたり、W杯でブラジルの背番号9を担うプレッシャーの大きさを不安視したりした。そして、2002年に得点王となり、優勝の立役者の1人となったロナウドを懐かしんだ。
リシャーリソンはストライカーらしい強気な面も隠さなかった。
「この重みのあるシャツを着るのは感動的なことだよ。チッチ監督の信頼に感謝している。W杯でこのシャツを与えてくれたということは、僕が多くのゴールを決めると分かっているからだ」
そして、W杯で何得点を決めたいかと聞かれると、こう答えた。
「得点数は分からない。プレッシャーがかかるから、ゴールは自然に生まれるようにしたい。ネイマールもビニも(ルーカス)パケタもいるし、他にも攻撃陣のチームメイトたちがいる。彼らがいれば、必ずボールは僕に届く。それをゴールネットに蹴り込むつもりだ。その準備はできている」
9番として戦い続けた4年間
リシャーリソンのフル代表初招集は、2018年W杯での準々決勝敗退後、ブラジルの再出発となった最初の親善試合だった。以来、W杯に向けた4年間のサイクルの全期間を通して、代表としてプレーし続けた。その期間は彼にとって長かったか、あっという間だったかを聞いた。
「僕の1試合目はアメリカで行われたことを思い出す。9月7日、ブラジルの独立記念日だった。それで……どうかな、走馬灯のようによみがえるよね。4年間、このブラジル代表のシャツを着続けてこられたことを、とても幸せに思う。厳しい時もあったけど、みんなで乗り越えてきたんだ。そして今、このサイクル全部の中で最も大事な時が来た。僕らのチャンスが訪れたと思っている。チームのクオリティは高いし、ブラジルのサポーターもチームを信頼している。僕らには素晴らしいW杯にするためのすべてがあるし、そのために戦うつもりだよ」
最終的にブラジルが戦った5試合中4試合に出場し、3得点を決めた。最後は号泣で終わったものの、あのクオリティとコンディションがあれば、誰が監督に就任しようとも、彼はおそらく代表に招集されるだろう。
そして新たな4年間のサイクルをスタートさせ、今後も重要な役割を担っていくに違いない。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Lucas Figueiredo/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。