ナポリとカメルーン代表の大黒柱、アンドレ・フランク・ザンボ・アンギサの挫折と飛躍
W杯で見てほしい!推しクラブのイチオシ選手#8_ナポリ編
いよいよ開幕したカタールW杯。4年に一度の祭典をどのように満喫するかは人それぞれだが、普段特定のクラブを応援している人にとって、所属選手たちの活躍は楽しみの1つであろう。そこで、自らの推しクラブを持つ方々にW杯で注目してほしい“イチオシ選手”をピックアップしてもらい、その魅力を綴ってもらう。
第8弾は長年ナポリを追う大田達郎(@iNut)さんが、今季セリエA首位独走中のチームを支える27歳、カメルーン代表のMFザンボ・アンギサを取り上げる。
2022-23シーズンのイタリア・セリエAは第15節まで終了し、カタールW杯のための中断期間に入った。変則日程となった今季、冬の王者となったのがSSCナポリだ。以前 footballista の記事でも紹介したように、ビッグネームがクラブを去り、多くの新戦力を迎えたナポリは、カンピオナート(リーグ戦)を年内無敗の首位(13勝2分)、そしてCLではリバプール、アヤックスと同組になりながら首位でグループステージを通過(5勝1敗)と、大方の予想に反して絶好調だ。
そんなナポリだが、イタリアがW杯出場を逃したこともあり、意外にもW杯本大会に参戦する選手は多くない。イタリア国籍以外の主力選手らは、いずれも各国代表の常連であるものの、クビチャ・クバラツヘリア(ジョージア)、スタニスラフ・ロボツカ(スロバキア)、エリフ・エルマス(北マケドニア)、アミル・ラフマニ(コソボ)、レオ・エスティゴーア(ノルウェー)など、いわゆる小国の出身が多い。エースFWのビクター・オシメーンのナイジェリアも予選敗退してしまったため、ナポリのサポーターとしては少々盛り上がりに欠ける大会になってしまった。もっとも年明けからのさらなる過密日程を考えれば、主力を休ませることができるのはありがたいことでもあるのだが。
今回のカタールW杯に参加するナポリ所属の選手はわずかに5人。しかしいずれも、各チームで主軸を担う重要な選手たちである。ポーランドの司令塔で今季絶好調のMF、ピオトル・ジエリンスキ。前回大会でドイツを陥れたメキシコの快速FW、イルビング・ロサーノ。あらゆる攻撃を跳ね返し「壁」として絶大な信頼を得る韓国のCB、キム・ミンジェ。対人守備力の高さと攻撃センスを兼ね備えたウルグアイのSB、マティアス・オリベラ。そして本稿で紹介するのが、ナポリで、そしてカメルーン代表で、絶対的な中盤の要として君臨するMF、アンドレ・フランク・ザンボ・アンギサである。
昨季のセリエAを最も驚かせた選手の1人であり、今季はさらに進化した姿を見せているアンギサ。かねてより高い評価を受けてきた彼のキャリアは、実はそれほど順風満帆であったわけではない。
アフリカからヨーロッパ、渡り歩いて4カ国
カメルーン南部に位置する首都、ヤウンデ出身。幼少期のアンギサは、控えめで落ち着いた性格のサッカー好きな少年だった。彼の家族は、祖父が地区の長であったことで有名だったそうだ。
アンギサの選手としてのキャリアは、同国北部の街ガルアのクラブ、コトン・スポールのユースセクターで始まった。ヤウンデ出身、コトン・スポールのユースでデビューというキャリアは、代表の同僚であり、2021年アフリカ・ネーションズカップで得点王に輝いたベテランFWバンサン・アブバカル(現アル・ナスル)とも共通する。教育熱心なアンギサの両親はサッカーと学業の両立を勧めていたが、コトン・スポールとの契約をきっかけに彼のキャリアをサポートしてくれるようになったとのことである。
アンギサが最初に注目を浴びたのは、2013年にヤウンデで行われた「G8」と呼ばれるU-17ユーストーナメントである。当時17歳のアンギサは、多くのヨーロッパクラブのスカウトの目に留まった。その中にはフランス・マルセイユのジャン・フィリップ・デュランの姿もあった。その後ヨーロッパのクラブから直接本人に接触があったが、最終的にはどのクラブとも契約には至らなかった。落胆し涙するアンギサに「いずれ必ずヨーロッパに行ける」と慰めたことを、コトン・スポールで彼の指導者だったアラン・ジブリラ氏がメディアに語っている。
アンギサをヨーロッパに初めて連れてきたのは、日本代表の伊東純也が現在プレーするフランスのスタッド・ランスであった。ランスのユースチームに加入しトレーニングをするアンギサに対するコーチたちの評価は「他にも準備のできている選手はいる、未熟な若手に戦術のことを教える時間はない」。のちに彼らはこれをひどく後悔することになる。
ランスのユースチームで出番が与えられなかったアンギサをマルセイユに連れてきたのが、G8トーナメントですでに彼に目をつけていた前述のデュランである。しかしトップチームに加わるためには、当時マルセイユを率いていた“奇人”マルセロ・ビエルサのお眼鏡にかなう必要があった。ビエルサのアシスタント、ディエゴ・レジェスの下で2週間トレーニングを受け、その様子を録画したビデオを見たビエルサは、アンギサをトップチームに加えることを決めた。ビエルサはそれからわずか2週間で辞任してしまうものの、後任のミチェル、そしてルディ・ガルシアが、アンギサの素質を見抜いて主力に抜擢。2015年、マルセイユでプロとしてのキャリアをスタートしたアンギサは、南フランスの地で頭角を現すことになる。
マルセイユでの活躍を受けて興味を持った多くのクラブの中で、実際にアンギサを獲得することになったのはプレミアリーグのフルアムだった。3000万ユーロもの移籍金を支払ってイングランドに連れてきたフルアムで 2018-19 シーズンをプレーすると、翌シーズンはラ・リーガ、ビジャレアルにレンタル移籍。2019-20 シーズンをスペインで過ごしたのち、2020-21 シーズンは再びフルアムでプレー。そして 2021 年夏、実に5大リーグ4カ国目となるイタリアでの挑戦を選ぶことになった。
失意のキャリアと「学ぶ姿勢」
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Profile
大田 達郎
1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut