39人のW杯予備登録メンバーの中にアヤックスは9人、PSVは4人の選手が名を連ねた。うち12人(唯一外れたのは代表レギュラーのブリント)がピッチに立った首位攻防戦アヤックス対PSVを現地取材した中田徹氏に、11月11日の最終メンバー発表を直前に控えたオランダ代表選手の最新事情をレポートしてもらおう。
9月半ばからアヤックスがピリッとしない。CLではリバプールとナポリに4戦全敗。強敵相手に負けるのは仕方がないが、4得点15失点はあまりにひどい。オランダリーグでもAZ(●2-1)、ゴー・アヘッド・イーグルス(1-1)相手に勝つことができず、ナポリとの連敗を含め、公式戦4試合連続勝利なしという体たらくだった。
その後、オランダリーグでは3連勝、CLではレンジャーズを下して10月を締めくくったアヤックスだったが、サッカーの質という点では攻守ともに合格点からほど遠く、この夏から指揮を執るアルフレッド・スフローダー監督やGKパスフェール、DFブリント、FWタディッチ、ベルフワインなど主力選手たち、強化責任者のハムストラ、フンテラール(“H2”と呼ばれている)に対する批判は高まるばかりだった。
穏やかな性格の持ち主として知られるスフローダーだが、「10月に入ってもチームが全然固まらないじゃないか」という記者からの問いに「今季のアヤックスは多くの主力が入れ替わり、チームを作り直しているところ。お前が思っているほどチームビルディングは簡単なものじゃないんだ」とキレてしまった。
10月の大敗を教訓にしたファン・ニステルローイ監督
一方、PSVはカンブールに3-0、フローニンゲンに4-2と完敗したのが響いて、10月末時点でアヤックスに次ぐ2位。格下相手の2つの完敗はともに10月に喫したものだった。
一見、アヤックスよりPSVの方が危機的状況に陥っているように見える。確かにカンブールに負けた直後のファン・ニステルローイ監督は怒っていた。しかし、フローニンゲン戦後の指揮官は実にソフトなムードで「カンブール戦と違ってPSVはほぼ試合を支配していた。最初の失点は個人のミスからだし、悪かったのは3点を続けて失ったあの時間帯(39分から46分)だけ。今日は仕方がない」とチームビルディングが前進していることを強調していた。その4日後、ELのアーセナル戦では内容が伴った2-0の勝利でオランダ中を驚かせた。
前任のロジャー・シュミット(現ベンフィカ監督)がハイプレス&ダイレクトサッカーを標榜したのに対し、ファン・ニステルローイはもっとパスを丁寧につなぐスタイルに切り替えようとしていた。ハイプレスに対するこだわりも現指揮官にはない。しかし、PSVは強豪チームだけに攻撃陣はどうしても高くポジショニングを取ってボールを回収しようとする。その結果、カンブール戦のPSVは前線と最終ラインが間延びしてしまった。この失敗を教訓とし、現在のPSVは自陣に引くことをためらわず、ポゼッションとカウンターを織り交ぜて戦うチームになった。
代表の主力ブリントがまさかの先発落ち
11月6日、アヤックス対PSVのおよそ1時間前。記者室にメンバー表が配られるより早く、ネットでこの日のスタメンを知った記者たちがざわついた。アヤックスの頭脳、デイリー・ブリントの名がスタメンになかったのだ。3日前のレンジャーズ戦で、ブリントは出場機会がなかったが、あくまでそれはローテーションだと思われていた。
ブリントを外した理由をスフローダー監督は「PSVの右サイドはシャビ・シモンズ。彼のスピードに伍して戦うためにスピードのあるレンチを左SBに置いた」と説明。レンチは今流行りの多機能右SBで、過去に左SBを務めた経験もある。W杯のオランダ代表予備メンバーに名を連ねる期待のタレントだ。とはいえ、ブリントのスピード不足、守備の不安定さを差し引いても「この大一番でブリントを外すか」という驚きは大きかった。
39人の予備登録メンバーの中から、11月11日にオランダ代表の26名が発表される。アヤックスは9人、PSVは4人、合わせて13人もの選手たちがアヤックス対PSVに絡んだわけだ。この13人の中で唯一、今回の試合で出場機会がなかったのがブリントだった。……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。