「リーグ最多の12引き分け。サガン鳥栖が直面する『ポジショナルプレーの壁』とは?」という記事を西部謙司氏に書いていただいたところ、徳島ヴォルティスのファン・サポーターの方々から要約すると「まだ軽傷です」という反響をいただいた。ちょうど前作の記事公開時に西部氏が追い続けるジェフ千葉が徳島と対戦したタイミングということもあり(結果は0-0の引き分けだった)、リカルド・ロドリゲス時代からポジショナルプレーを続ける徳島の「ドロー症候群」について聞いてみた。
ポジショナルプレーの壁
第27節の東京ヴェルディ戦から3連勝、ここにきて波に乗ってきた徳島ヴォルティスだが、それまでは引き分けの多い今季だった。3連勝の前は7連続のドロー。34試合で引き分けが20あり、6割近くが引き分けというドロー率の高さなのだ。
負け試合はわずかに5。これは首位の横浜FCと並ぶ少なさなのだが、勝利が9試合なので現在の順位は10位となっている。
Jリーグはここ数年でポジショナルプレーが浸透してきている。徳島は早くから取り組んできたチームでもあり、リカルド・ロドリゲス監督からダニエル・ポヤトス監督に代わっても方針は継続されている。ポジショナルプレーが最もこなれているチームの1つだ。ボール支配率は高く、試合によってはボールポゼッション70%を超えることもある。しかし、それが勝利に直結していないのが歯がゆいところかもしれない。
徳島が直面しているのは。いわば「ポジショナルプレーの壁」である。
ポジショナルプレーの威力をまざまざと見せつけたのは、2008年のジョセップ・グアルディオラ監督就任からのバルセロナだった。その後、バルサ・スタイルを模倣するチームが現れたのだがバルサと同じ水準に達することはなく、その効果を疑い始めて1、2年でやめてしまうケースが続出した。現在はすっかり浸透して普通の戦術になってきた感があるが、最初の10年間ぐらいはまだ特異な戦術と認識されていた。
バルサ方式の採用が上手くいかなかった理由ははっきりしている。ボール保持が得点に直結しなかったからだ。バルサ方式を採り入れてボール支配すらできないというケースはほぼなかったと思う。ボールは支配できる。ただ、どのチームも「ウチにはメッシがいない」という現実に突き当たった。
ボール保持ができるのは、相手に球際を作らせずにボールを逃がし続けるからである。言い方を変えると、無理にボールを前進させようとはしない。これはポジショナルプレーの肝になる考え方でもある。敵の追跡からボールを守る。速く前進するのではなく、相手に追わせて隙間を作り、相手のライン間へ繋いで前進する。その前提としてライン手前での安全性の高いパスがあり、バックパスを厭わない。デ・カラ(顔)は重要な用語で、顔が前を向いていて視野の広い選手に積極的にボールを預けることを意味する。つまり、バックパスの多用が行われる。無理に速くボールを前進させる必要はないという考えが根底にあるわけだ。
自陣での数的優位の活用(GKの攻撃参加を含む)、前進を急がない考え方の浸透、ライン間への縦パスと受け手の技量……バルサ方式によるボール支配にもいくつかのハードルはあるのだが、バルサを模倣しようというチームはそれなりにクリアしていた。これは徳島も同じである。その結果、ボール保持率は高くなる。半面、前進を急がないので相手には引かれてしまう。ここまでは想定内だ。
しかし、ここでポジショナルプレーの壁が現れる。引いてブロックを形成している守備をどう崩すか。バルサにはリオネル・メッシという回答があった。ただ、本家のバルサでもメッシ以外の決定的な解は持っておらず、シャビとイニエスタがいなくなると、FCメッシ化していったのは周知の通りである。それでもメッシがいれば得点は生み出せる。では、メッシがいなければ? 解を見出せないチームは次々にバルサ化から離脱していくことになった。
バルサに学ぶ「ハイプレスのすゝめ」
徳島はポジショナルプレーを継続している。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。