今月10日、コスタリカでU-20女子ワールドカップが幕を開ける。
本来なら2年前にコスタリカとパナマの共催で開かれていたはずのU-20女子W杯だが、コロナ禍の影響で大会は延期となった。その後、「インフラ整備が間に合わない」としてパナマが共催を辞退。結局、大会自体が中止となり、改めてコスタリカの単独開催が決定し、今月10日にようやく開幕を迎えるわけだ。
何と言っても、今大会の注目は大会史上初の連覇を目指す“ヤングなでしこ”だろう。前回の2018年大会で頂点に輝いた日本は、女子サッカー史上初となるA代表と年代別(U-20、U-17)を含めた“ワールドカップ3世代”制覇を達成した。今大会はオランダ、ガーナ、そしてアメリカという女子サッカーの強豪国と同じグループに入ったため難しい試合が続くかもしれないが、開催地コスタリカは日本にとって縁起の良い場所なので期待できる。
前回、コスタリカでFIFA国際大会が行われたのは8年前のこと。その時はU-17世代の女子ワールドカップが開かれ、日本は順調に勝ち進んだ。そして、今大会の決勝の会場でもある首都サンホセのエスタディオ・ナシオナルで、スペインとのファイナルを制して初優勝を遂げたのだ。そんな縁起の良いコスタリカの地で、再び頂点を目指して8月11日、U-20オランダ女子代表との初戦に臨むことになる。
目指すは女子W杯初勝利
ヤングなでしこにも注目だが、大会の盛り上がりに欠かせないのは開催国の躍進である。先日、大統領官邸を表敬訪問して「国民のサポートを感じる」「全力を出し切る」と誓ったコスタリカの選手たちだが、なかなか簡単にはいかないだろう。
5月にアメリカで強化試合を行った際には、U-20アメリカ女子代表に「0-3」と「0-5」で2試合連続の完敗。さらに今大会の直前に行われたオランダ代表との非公開の練習試合では、チームの中心選手である背番号10のMFイルラニ・エルナンデスが膝を負傷。大会を欠場することになったのだ。
それだけではない。コスタリカは、これまで“W杯”で1度も勝てていないのだ。U-20女子ワールドカップは出場した過去2大会とも3戦全敗でグループステージ敗退。U-17世代でも出場した過去2回はやはり全敗。A代表の女子W杯は2015年に一度だけ出場し、0勝2分け1敗でグループステージを後にした。だから今大会、コスタリカは女子ワールドカップ “3世代”を通しての初勝利を目指すのだ。
そんな選手たちは、大会前のインタビューで「見ている子供たちに勇気を与えたい」と口にしていた。彼女たちがそう強く感じるのは、自分たちも勇気をもらってきたからだ。今大会のコスタリカ代表メンバーの大半は、憧れの存在を聞かれた際に「シルリー・クルス」と答えていた。
レジェンドへの憧れを力に変えて
あまり聞き馴染みが無いかもしれないが、シルリー・クルスはコスタリカ女子サッカー界の生きる伝説だ。サンホセ出身のMFは、若くしてフランスの名門リヨンに引き抜かれ、欧州で輝かしいキャリアを築いた。
リヨンでは大滝麻未(現在ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)とも一緒にプレーし、UEFA女子チャンピオンズリーグで2度の優勝を経験。その後はパリ・サンジェルマンなどでもプレーし、今年から母国の名門アラフエレンセに所属している。5月に開かれた今大会の組み合わせ抽選会では、元FC東京のパウロ・ワンチョペとともにクジを引く役を務めた。
今月末には37歳となるクルスだが、今もコスタリカ女子代表のキャプテンとしてチームを牽引しており、7月に行われた女子W杯・北中米カリブ海予選では母国を2大会ぶりの本大会出場に導いている。そう考えると、コスタリカのサッカー界はこれから“特別な1年”を迎えることになる。
今月のU-20女子ワールドカップの後は、今冬の男子ワールドカップ・カタール大会だ。コスタリカ男子代表は6月に行われたニュージーランドとの大陸間プレーオフを制して3大会連続6度目の本大会出場を決めており、日本と同じグループEに入っている。
そして来夏には、オーストラリア/ニュージーランド共催の女子ワールドカップである。W杯の常連国とは呼べないコスタリカが、1年のうちに3つのW杯に出場するのだ。そんな特別な1年の皮切りが、今月のU-20女子W杯となる。コスタリカの若き選手たちは、今大会の活躍次第では来年オセアニアで開かれる最高峰の舞台で、憧れのシルリー・クルスと一緒にピッチに立てるかもしれない。
Photos: Getty Images, Toshiaki Ikeda
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。