今夏、アーセナルが移籍市場で派手な動きを見せている。マンチェスター・シティから獲得したジェズス、ジンチェンコを筆頭に、課題だったスカッドの底上げに成功。プレシーズンマッチでもさっそく新戦力が機能し、順調な仕上がりを披露。期待が高まる22-23シーズンのアーセナルについて、3つのQ&Aで展望していきたい。
21-22シーズンを終えたアーセナルファンの心境はさぞ複雑だっただろう。ピッチにおけるサッカーのクオリティには確かな上積みを感じた反面、最大の目標であったCL出場権の確保は達成目前にして自ら取りこぼしてしまった。手ごたえと力不足、両方を感じた1年だったのではないだろうか。
それでもここ数年に比べればオフのアーセナルを取り巻く雰囲気は明るい。シーズンを前向きに待ち焦がれるファンは例年以上に多く「今年こそは!」と鼻息を荒く開幕までの日を指折り数えている。
Q1. 新戦力に求められる役割は?
A. 万能の「9番」と「SB」でとにかく得点増
原稿を書いている現段階でアーセナルがこの夏に費やした移籍金は1億2000万ポンドほど。これはヨーロッパでもトップクラスの数字である。
同じく高額の移籍金を費やしているプレミアクラブを見てみるとマンチェスター・シティやリーズ、トッテナムなどの名前が連なる。だが、彼らは高額な移籍金で選手売却にも成功しているクラブ。この夏に移籍金での巨額な収入が見込めないアーセナルとは事情が異なる。もはやアーセナルがお金を使わないクラブというのは過去の話。少なくとも選手の獲得には世界トップクラスでお金を払っているクラブと言っていいだろう。
したがって、新戦力にかかる期待は否が応でも高まっている。移籍金をかけたという側面においては昨シーズンと同じであるが、今シーズン獲得した選手を見てみると少し毛色が違う。
昨季獲得した選手は多くがメガクラブ初挑戦。実力未知数な部分がある有力株を青田買いした印象がある。それに対して今年はメガクラブやCL出場経験のあるクラブからの補強が中心。より大舞台での実績を出してきた選手がターゲットになっている。
彼らに期待されていることは昨シーズンにアーセナルが見せたサッカーの質をより高めること。すなわち、自陣からのボール保持と相手陣での高い位置からのプレッシングを主体とした試合を支配するスタイルへの貢献が求められることとなる。
悲願となるCL出場権を獲得するに課題になるのは何と言っても得点力向上が必須。そのためのキーとなる新戦力を2人ピックアップしたい。
1人目は待望の新9番として獲得したガブリエウ・ジェズスだ。彼に託された仕事は、これまでのアーセナルのCFの仕事をより高次元でこなすことである。
昨季まで、アーセナルのFWを務めていたのはラカゼットとオーバメヤンの2人。ラカゼットはポストプレーなど攻撃の構築への貢献度は高い一方で、エリア内での仕事には不満が残る。一方のオーバメヤンはエリア内での細かなポジショニングなどで決定的なシュート機会を創出はできるが、ボール保持に絡むことは得意ではなく、展開によっては消えてしまうことも珍しくない。
簡単に言えば、ジェズスには2人のいいところ取りを期待したい。組み立てへの貢献もしつつ、ゴールを産むことの両立である。ジェズスは典型的なボックスストライカーというよりも、苦手分野が少なく平均点が高いオールラウンダー型。多くの仕事を高い次元でこなせるようになれば、アーセナルにとって完璧な「9番」になるだろう。
そうなるためにはチームとしてCFにゴールの機会を提供することが必要。ラカゼットがゴール前の仕事に集中できなかったのは、前進において彼のポストプレーへの依存度が高過ぎたためでもある。
しかし、今のアーセナルはこれまでほどビルドアップにおいてCFのポストに依存するチームではない。そういう意味ではこの時期にアーセナルに来たことはタイミング的には良かったかもしれない。
無論、ジェズスもビルドアップ参加の心得は十分にあるはず。相手が前からのプレスに来た際に、ライン間ボールを引き出す動きはすでにシティで多くの実績を積んでいる。つなぎの局面にも期待しつつ、彼をどれだけゴール前に集中させることができるかはアーセナルにとっての大きなポイントだ。このポイントが抑えられれば、ジェズスがスコアラーとしての才覚に目覚め、新境地を開拓しても不思議ではないだろう。プレシーズンで開花しつつある得点能力をぜひシーズンでも爆発させてほしい。……
Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。