先日、F1ドライバーのルイス・ハミルトン(37歳)がブラジルの名誉市民に選ばれることが発表されたが、彼ほどサッカー界と縁が深いレーサーもいないだろう。
英雄ペレから祝福を受ける
ブラジルが生んだ伝説のレーサー、アイルトン・セナ(1994年に他界)を尊敬してやまないハミルトンは、昨年11月にサンパウロGPを制すると、ブラジルの国旗を掲げて優勝を喜んだ。すると、これまでも“ブラジル愛”を語ってきた同レーサーに名誉市民権を授ける提案がブラジル国内で浮上し、今年6月にブラジル連邦議会下院で無事に可決されて授与が決定したのである。
これを受けてハミルトンは「言葉にならない。僕が最も好きな場所の1つであるブラジルの名誉市民権を授かった。ありがとう、ブラジル」と英語とポルトガル語で感謝の意を自身のインスタグラムにつづった。そして、ブラジルで最も有名な偉人からも祝福を受けることになった。
「ルイス、おめでとう。今後、君を同胞と呼べることが嬉しいよ」とハミルトンのインスタグラムに書き込んだのは、他の誰でもない、“サッカーの神様”ことペレ(81歳)だった。実はペレは、昨年のサンパウロGPでブラジル国旗を掲げたハミルトンの行為に感銘を受け、その際に「F1の表彰台でブラジルの国旗を見られるなんてブラジル人にとって最高の日になった」と、サイン入りのブラジル代表のユニフォームを贈っていたのである。
そう考えると、サッカーの母国で生まれ、気づけばサッカー王国の一員にもなったハミルトンは、まさにサッカーに愛されるレーサーと呼べるだろう。
憧れのアンリとも対戦済み
歴代最多タイとなる7度のF1年間王者に輝いているハミルトンは、サッカー好きで有名だ。子供の頃はサッカーにも打ち込んでおり、学生時代は元イングランド代表MFアシュリー・ヤングと同級生。学校の同じチームでプレーしていたそうで、ヤングも「彼はなかなかの腕前だった」と認めたことがある。
ヤングは地元のワトフォードでプロ選手になり、その後はマンチェスター・ユナイテッドなどでも活躍したが、ハミルトンは生粋のアーセナルファンである。「5歳からアーセナルをサポートしている」そうで、2018年にアーセン・ベンゲル元監督が退任する際には「僕は常にアーセンに敬服してきた」と22年間もチームを率いた名将を称えていた。
さらに2015年には、アーセナルの英雄であるティエリ・アンリとも“共演”した。英放送局『Sky Sports』のイベントで憧れのアンリと5人制サッカーで対戦することに。ロベール・ピレス、ソル・キャンベル、レイ・パーラーといったアーセナルOBを率いて、ジェイミー・カラガーを擁するアンリのチームと対戦した。その試合では、フェンス際でカラガーに激しいボディチェックを受けたシーンが話題になった。
今年4月には、テニス界の偉人であるセリーナ・ウイリアムズ等と、売りに出されたチェルシーの買収を目指すコンソーシアムに出資することを表明した。結局、買収には至らなかったが、本格的なサッカー界への参入を試みた。
サッカーの王様に歓迎され、アンリと共演し、クラブ買収を試みる。ハミルトンは、サッカー界を賑わせる世界最速の男なのだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。