2020-21シーズン終了後、ダニー・レールはハンジ・フリックとともにバイエルンを去り、新しくドイツ代表監督に着任した同指揮官のアシスタントの座に就いた。それまでヨアヒム・レーブの副官を務めていたマルクス・ゾルグと2 人でフリックを支えている。この元ドイツ6部リーグの選手、体育学の研究者、スカウトおよび選手・試合の分析官、そしてエミールとフィーテという2人の息子の父親は、どのような人物なのだろうか。
カタールワールドカップで日本代表と対戦することが決まったドイツ代表の現役テクニカルスタッフがその仕事内容、サッカーに対する考え方、32歳の指導者が見据える目標について、ドイツ誌『キッカー』に語ったインタビュー(2021年11月11日公開)を特別掲載する。
※『フットボリスタ第89号』より掲載
クラブと代表の違い
メタ・ポジションから試合を観察頭の中に余白ができ、より創造的に
── ドイツ代表のアシスタントコーチとしての仕事はいかがですか?
「とても変化が多く、様々な新しいプロセスを行わなければなりません。例えば、選手たちや各クラブと常にコンタクトを取り続けるようなことです。新しい人たちと知り合うこともできるので、楽しんでいますよ。密接に連絡を取り合い、情報を交換し合うことは重要な作業です。というのも、クラブも私たちドイツ代表も共通の目標を持っているからです。選手たちをさらに成長させるという共通目標。今のところ、ポジティブな成果が出ていると思います。良いスタートを切れたので、すべてが容易になりました」
── クラブチームと違い、代表チームでは毎日トレーニングすることはありません。新しい仕事の流れはどうでしょう?
「退屈することは本当にありません。常に移動していますし、そうでなければラップトップの前にいますから。そうして、たくさんのことについてしっかり準備できたり、興味深いと感じた試合をじっくり見直すことができます。その中から必要な場面や選手を切り取り、全体像をより正確につかめるようにするわけです。日々の仕事の他にも多くの物事について幅広く学び、自分自身の世界をさらに広げられます。
ドイツ代表という新しい仕事は、これまでとは異なる視点をもたらしてくれます。外部のメタ・ポジションから試合を見られるようになりましたね。今ではより距離を取って試合を観察できるようになり、そこで受けた印象を様々な異なるプロセスによって処理し、その評価もより深い内省を経ながら行えるようになりました。バイエルンのようなクラブチームでは毎日トレーニングを行い、3日おきに試合があります。そうなると、次から次にやって来る試合に向けて準備をしなければならず、トンネルにこもり、回し車の中で走り続けている状態ですからね。
代表合宿が始まるまでに、よりじっくりと検討し、次の学習目標に向けて良い準備ができるようになりました。頭の中にも余白ができ、より創造的になれます。私は常に、できるだけ試合に近いトレーニングをしたいと考えています。つまり、試合の中で実践されるべき役割・タスクやテーマをトレーニングの中に組み込むのです。私の目標はいつも、実践に極力近いトレーニングを行うこと。そのために、これまでも私は分析を担当しながらもアシスタントコーチとして働いてきたのです。私の興味は理論だけではなく、その知識を実際のピッチ上で再現し、実践させることでした」
── ベンチにおける動き、姿勢について大切なことは?
「サウサンプトンの頃(18-19)に比べれば、ずっと落ち着いて静かになりましたよ。とはいえ、サウサンプトンでは状況がまったく違っていました。チームは残留争いのど真ん中に置かれ、ベンチも常にプレミアリーグに生き残るために全力を尽くすことを求められましたから。
ベンチに座るアシスタントコーチとして重要なのは、とにかく自身が冷静でいると周囲にも伝わるようにすることです。そして、あらゆる瞬間で監督をサポートできる状態にあること。慌ててしまっては元も子もありません。そうではなく戦略的に熟考し、アイディアをすぐに引き出せるようにしておくこと。例えば、目的に応じた選手交代などです。試合の状況を予測し、監督に適切なアイディアを勧められるようにあらかじめ準備しておくことが大切です。その際、ドイツ代表ではマルクス・ゾルグと意見を合わせておくことも欠かせません」
試合分析とプレーコンセプト
ベースとなるキーワードは「テンポ」「インテンシティ」「アクティビティ」……
Profile
キッカー
1920年創刊。週2回、月曜日と木曜日に発行される。総合スポーツ誌ではあるが誌面の大半をサッカーに割き、1部だけでなく下部リーグまで充実した情報を届ける。