【対談前編】河内一馬×中野崇。「戦術動作」は日本と世界のギャップを埋めるのか?
『闘争競争理論』の提唱者である河内一馬氏が監督兼CBO(Chief Branding Officer/ブランディング責任者)を務める鎌倉インターナショナルFC(鎌倉インテル/神奈川県社会人サッカー2部リーグ)が2022年4月、スポーツトレーナー/フィジカルコーチの中野崇氏が戦術動作アドバイザーに就任したことを発表。その取り組みや狙いについて、河内氏と中野氏に対談してもらった。
前編では、戦術動作の理論に基づく「フィジカルと戦術の融合」とは何なのかを考える。
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――まずは、お二人が知り合いになったきっかけについて教えてください。
河内「中野さんは、あまりサッカー関係のメディアに出ていませんよね」
中野「ほとんど出たことはないと思います」
河内「中野さんは、ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチなどの活動をされ、現在は戦術動作コーチを務めていますが、メディアが表立って中野さんのことを記事にすることはなかったと思うんです。僕が中野さんと知り合うきっかけとなったのは、アルゼンチンにいる時、現地在住のライターの藤坂ガルシア千鶴さんとの雑談の中で、僕が東洋医学をもう一回学び直したいと考えている、と彼女に話したことでした」
――河内さんは学生時代に東洋医学を学ばれていますよね。
河内「はい。3年間勉強していました。そして、千鶴さんから東洋医学のことならこの人に聞け、ということで中野さんのお名前を教えてもらったんです。そして、一時帰国のタイミングが偶然重なって、品川でお会いしました。その時も2時間くらいしゃべっちゃったね(笑)」
中野「完全に意気投合しました」
――そもそもなぜ、アルゼンチン在住の千鶴さんと中野さんはお知り合いだったんですか?
中野「僕は、ブラインドサッカーの日本代表チームで長くフィジカルコーチをしていたんですが、アルゼンチン遠征の時に千鶴さんに現地コーディネーターとしてサポートしていただいたんです」
――中野さんは、日本古来の武道などから多くのインスピレーションを得られているそうですね。東洋医学の考え方を、ご自身のトレーニングメソッドにどのように反映されているのでしょうか?
中野「具体的に東洋医学をどうこうってことではないのですが、例えば、局所だけを鍛えても、全体的の動きには反映されにくい、ということがあります。また、フィジカル、サイズ、パワーで外国人に勝てない日本人選手たちに対して、『外国人にフィジカルコンタクトで勝たなければ戦術が成立しない』という状況になった時に、どうやって勝つのかという課題もあります。その時に、単純に相手の力を超えていくということが、これまでの基本的な考え方でした。僕は、相手に力を発揮させないこと、例えば合気道のように相手を抱擁するような考え方をサッカーのトレーニングに持ち込み、実践しています」
――お二人は会ってすぐに意気投合したとのことですが、河内さんは中野さんのどういう考えに共感されたのでしょうか?
河内「中野さんにお会いした時、実は僕の中では『競争闘争理論』は、ほぼでき上がっていたんです。その考え方をベースに中野さんとお話した際に、考え方が驚くほど一致したんですね。そもそも僕のサッカーに関する考え方の根底にあるのは『日本人がやるサッカーと、西洋人がやるサッカーはそもそもの前提が違う』というものです。両者はまったく前提が違うので、そこから考え直さなければ、日本人のサッカーは何をやっても結局は“ガラクタ”のようなものに行き着く以外にない、と思っています。中野さんにお会いする前は、この問題についてきちんと話をできる人が周りにいませんでしたし、この話をちゃんとした角度からできることに、シンプルに喜びを感じたんです。そして、同じ前提を持った中野さんと、身体の話ができることが僕にとってはすごくありがたかった。初対面なのに、『この人に聞けば何でも答えてくれそうだ』という感覚を持ってしまいました(笑)」
戦術動作とは何か
――今回、中野さんは鎌倉インテルに戦術動作アドバイザーという形で就任されました。中野さんの考える戦術動作とはどのようなものですか?
中野「戦術動作という考え方は、実のところ、それほど斬新なものではありません。一言で言えば、『チームがやろうとしている戦術を実行するために必要な動作体系』。これが戦術動作です。その中でもサッカーの中で頻出する動きのことを『基幹動作』と呼んでいます。この基幹動作はいくつかの種類がありますが、それらを組み合わせた動作のことを『相対動作』と呼びます。戦術動作はこのような構造になっていますが、それぞれの動作はチームの戦術次第で重要度が変わるので、そこに優先順位をつけていきます。つまり、フィジカルトレーニングや動作トレーニングに優先順位をつけるためのプロセスが戦術動作と考えてください。では、例えば浅野さんがサッカークラブの監督だったとして、フィジカルコーチに選手のフィジカル強化を頼みたいとなった時、どんなオーダーを出されますか?」
――例えば、体幹強化のために週2回筋トレをさせたいからメニューを考えてください、という感じでしょうか。
中野「そうですよね。今の言葉の中には、言うまでもなく『サッカーに有効な』というニュアンスが入っていると思います。ただ、『サッカーに有効な』という部分がどのように保証されるかという議論があまりにも少ない。指導者やフィジカルコーチがその点を突き詰めていない場合も少なくありません。戦術動作とは、『フィジカル』とか『強化』とか『体幹』といった抽象的な言葉に『戦術』という縛りをつけることで、ベクトルを合致させていくための方法と言えます」
――「戦術」と「動作」を結びつけるのはユニークですよね。河内さんが「戦術動作」に注目されたきっかけは何だったのでしょう?……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。