現在プレミアリーグ5位とリーガエスパニョーラ4位。国内では優勝が絶望的な両者によるCLラウンド16対決は、1-1の“前半90分”を経た第2レグ、0-1でアトレティコ・マドリーに軍配が上がった。オールドトラッフォードの舞台で何が起きたのか(起きなかったのか)。西部謙司氏が振り返る。
結局のところ、いったい何がしたかったのだろう? まだシーズンは続いているが、今季のマンチェスター・ユナイテッドについての感想は残念ながらそれに尽きる。
昨年11月末、ラルフ・ラングニックを暫定監督に据えた(今季終了後はクラブのコンサルタントを務める)。クラブは変化を恐れず前進しようという意志を見せたわけだ。ラングニックは劇薬だ。強烈な副作用が懸念された。それも覚悟の招へいだったに違いない。ところが、ユナイテッドに起きたのは「何も起きない」という一種の怪奇現象だった――。
第1レグを1-1で終え、オールドトラッフォードにアトレティコ・マドリーを迎えたユナイテッドは、ユナイテッドらしい立ち上がりを見せている。大観衆の声援をバックに、獰猛(どうもう)で恐れを知らぬ男たちが攻めかかる。クリスティアーノ・ロナウドはいつになく左右に流れる。左ウイングだった時にはいつもこうだったが、ここ数年のロナウドにしては珍しい。サイドを数的優位で制し、引きつけてからのサイドチェンジ。ブルーノ・フェルナンデス、アンソニー・エランガ、フレッジが、アトレティコの5バックの隙間へ突入していく。
13分には、B.フェルナンデスの低いクロスをニアポスト前で引っかけたエランガの一撃がもう少しでゴールを割るところだった。ポストを直撃したかに見えたシュートは、GKヤン・オブラクの頭部に当たっていた。
このシーンで肝を冷やしたアトレティコは、すぐに守備対応を修正する。戦術的にはこれがキーポイントだった。
5バックの前にロドリゴ・デ・パウル、エクトル・エレーラ、コケの3人、ジョアン・フェリックスとアントワーヌ・グリーズマンの2トップという布陣から、グリーズマンを右サイドに下げた[5-4-1]に変えている。これでサイドの圧力を増すとともに、ユナイテッドのサイドチェンジに対して隙間を作らないようにした。
修正の副産物
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。