CL前回王者チェルシーが2月22日、今季ラウンド16で迎え撃つ相手がフランスのLOSCリールである。昨季パリ・サンジェルマンを下したリーグ1覇者でありながら、今季はここまで11位(9勝9分7敗)と国内では停滞。しかし、欧州の舞台ではグループステージ首位で勝ち上がってきた不思議で不気味なチームだ。
『昨季のフランスリーグ王者』という称号もむなしく、今季はシーズン序盤から順位表の中位をうろついているリールが、グループ首位でCL決勝トーナメントに勝ち上がるとは誰も予想していなかった。
パリ・サンジェルマン(PSG)との激闘を制して優勝を勝ち取ったカリスマ監督、クリストフ・ガルティエはニースへ去り、昨季リーグ1最多となる21回のクリーンシートを達成した立役者、フランス代表の次期正GKマイク・メニャンはミランに羽ばたいた。深刻な財政難にあって、サラリーを縮小すべく昨夏と今冬で合わせて17人の選手を手放した彼らに、昨季と同様の戦力は残されていない。
それでもリールは、自国リーグでは彼らよりも上位で善戦しているザルツブルク(オーストリア)、セビージャ(スペイン)、ボルフスブルク(ドイツ)と同居したグループGを、3勝2分1敗(7得点4失点)の首位で突破した。引き分け以上で首位確定という状況で迎えた昨年12月の最終節ボルフスブルク戦は、敵地で1-3の勝利を収めている。
そうして06-07シーズンから15年ぶり、クラブ史上2度目の決勝トーナメント進出を実現した彼らが、さっそくラウンド16で対戦することになったのが……ディフェンディング・チャンピオンのチェルシー。ということで、今リールを取り巻くのは、「当たって砕けろ」「失うものはない」といったチャレンジャー的な空気だ。
3ラインの熟練3本柱と22歳の新鋭エース
「チャンピオンズリーグの試合では、我われは毎試合300%出し切る!」と言い切る新監督ジョスラン・グルベネックは、ギャンガンを率いて2014年にフランスカップで優勝した経験があり、2019年にもリーグカップで準優勝と、一発勝負のトーナメントに強い。今季のスーパーカップ(昨年8月)でも、昨季のフランスカップ王者PSGを1-0で破ってトロフィーを手に入れている。
そのグルベネックが指揮する現チームは、タイプ的にはこれまでのプレースタイルを踏襲している印象だ。バックラインの守備が統制され、前線では運動能力の高い攻撃手がスペースをワイドに使って展開する。
守備のリーダーはキャプテンのジョゼ・フォンテ。38歳となったCBは、ポルトガル代表の同僚クリスティアーノ・ロナウドに触発されて体のメンテナンスに励んでいるそうで、「あと2、3年はこのレベルでプレーが続けられる」と語る頼もしい大黒柱だ。
彼と抜群の連係を見せつつ中盤でバランスを取るのが、31歳の守備的MFバンジャマン・アンドレ。その前方に陣取るトルコ代表で36歳の熟練FWブラク・ユルマズは、チームにエネルギーを注入するモーター的な存在だ。ピッチ中央に形成されるこの縦のラインが、リールの軸である。
そして攻撃の要がカナダ代表のジョナサン・デイビッド。CLグループステージでも3得点をマークした22歳のFWは、入団初年度の昨季は、初ゴールこそ11月末とやや時間はかかったが、その後コンスタントにネットを揺らしてリーグ戦13得点。今季も第25節を終えた現時点ですでに12得点を挙げていて、モナコのウィサム・ベン・イェデルに次いで、キリアン・ムバッペ(PSG)らと並ぶリーグ1得点ランキング2位につけている。
両足を同じように使いこなすデイビッドの特徴は、ゴール至近距離からの得点が多いことだ。得点のほとんどが試合の流れの中で決めたもので、今季は2点をPKで記録しているが、昨季は13点全部がプレー中のゴールだった。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。