10月シリーズの日本代表は、サウジアラビア戦の敗戦という苦難のスタートに。しかし[4-3-3]の導入と守田英正と田中碧の両名を抜擢という指揮官の決断が実る形でオーストラリアに快勝、土俵際の勝負を制した。迎える11月シリーズのメンバーは、守田・田中に続く“フロンターレ組”を8名も大量選出するものだった。川崎フロンターレの4度の優勝を取材し、日本代表の取材も重ねる林遼平記者が「日本代表の川崎化」を考察する。
川崎Fは川崎Fだから川崎Fである
毎度のことながらメンバー発表は様々な思いを巡らせる。「あっ」と言わせるような選考で驚きを与えてくれることもあれば、いつもと同じ選手が並び「またか」と期待を裏切られたような感情になることもある。そして、招集された選手たちを見て、サッカーファンは「あーだこーだ」と語り合い、その結果、試合を楽しみに待つわけだ。
今回のメンバー選考で特に議論の的となりそうなのは、やはり川崎フロンターレに在籍経験のある選手が8人も選出されたことだろう。かつてJ2を経験し、J1でも17年にリーグタイトルを取るまでシルバーコレクターと揶揄されていた川崎Fから、これほどまでに代表選手が出てくるとは、黎明期には思ってもいなかったことだろう。史上最速タイでのリーグ優勝を果たした現在の強さを引っくるめて、サッカー談義のネタとして重宝されるものになったことも間違いない。
ただ、「“日本代表の川崎化”によってチームは好転するのか」と問われれば、そう易々と「YES」と言い切れない。
その理由としてまず挙げておきたいのが、そもそもクラブの歴史を紐解いても、川崎Fから代表の主力を担うような選手がほとんど出てこなかったことだ。
確かに5年で4度のリーグ制覇を成し遂げ、今季は歴代最強の呼び声も高いチームに仕上がった。長い時間をかけて技術力のある選手たちを揃え、選手個々が攻守のイメージを共有できるようなスタイルを構築。根幹には風間八宏前監督が作り上げた攻撃的なサッカーがあり、それを鬼木達監督がブラッシュアップしてより強力なチームを作っていった過程がある。
言ってしまえば、「フロンターレはフロンターレだからこそ可能なフロンターレのサッカーをしている」とも言える。普段から分かり合った選手が横にいてすぐに意思疎通を図ることができるのがクラブチームだが、代表チームは違う。各チームのスペシャルな選手が揃い、それぞれ普段プレーするチームは同じスタイルではないし、見知ったメンバーばかりというわけでもない。まったく違う環境で戦って勝利することを求められる中、重要になるのはもちろん「フロンターレのサッカーをすること」ではない。短い期間で新たなチームの戦いに順応し、結果を出せるか。そこに尽きる。
川崎Fの選手が日本代表で輝けなかった理由
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Profile
林 遼平
1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。