9月19日に行われたリーグ1の第6節において、リオネル・メッシがついにパルク・デ・プランスでの本拠地デビューを果たした。
パリ・サンジェルマンでの初プレーは、後半から途中出場した8月29日の第4節スタッド・ランス戦だったが、その後、代表ウィークをはさんだため、ホーム初見参はリヨンという格好の相手を迎えたカードとなった。
勝利もメッシの動きは凡庸
スタッド・ランス戦でも、普段は半分くらいしか埋まらない2万1600人収容のオーギュスト・デュローヌに2万以上の観衆が詰めかけたが、このリヨン戦のチケットも、良い席は公式の転売サイトで定価の約10倍となる1350〜1500ユーロという高値で取引されていた。まさに“メッシ特需”だ。
試合前にはPSGの元キャプテン、ブラジル人MFライーがスペシャルゲストとして登場。リーグ1で51得点をマークしたクラブレジェンドは、ネイマールやリヨンのルーカス・パケタらブラジル代表の後輩たちと熱い抱擁を交わした後、センターサークルでセレモニー的なキックオフを行った。
メッシ、キリアン・ムバッペ、ネイマール、アンへル・ディ・マリアという世界を代表するアタッカー4人がそろって先発する超豪華な布陣がついに実現したこの試合は、PSGが2-1で勝利を収め、開幕以降の全勝をキープした……のだが、内容的にはメッシの登場がまるっきりかすむような、リヨンの方が格段に上と思える試合だった。
試合後にリヨンのピーター・ボス監督も「我われの戦いぶりは、敗戦という結果にはふさわしくない」と語ったが、まさにその通りで、リヨンが54分に先制した後、ネイマールが自分で倒れて(むしろ相手を引きずり倒して)ゲットしたPKで同点に追い付くと、アディショナルタイムに途中出場のマウロ・イカルディがヘッド弾を決めて、劇的な逆転勝利とあいなった。
メッシはネイマールのバックヒールパスからシュートを放ったり、ゴールポストの角に当てる(ある意味すごい)FKを打ったりと、スタンドを沸かせる見せ場も多少はあったが、試合の勝敗にインパクトを与えるような決定的なパフォーマンスはなく、そんなわけだから76分に交代を告げられた時の不満げな様子を取り上げた話題ばかりがクローズアップされることになってしまった。
ちなみにこれについては、後日PSGのポチェッティーノ監督が「交代させる少し前に、9月の代表戦で痛めたのと同じ部分を蹴られていたため、大事を取る意味があった」と明かしている。
メッシは次のメス戦とモンペリエ戦も欠場し、火曜のUEFAチャンピオンズリーグ、マンチェスター・シティ戦に向けて、現在コンディション調整中だ。
試合前のメッシに惚れ惚れ
そんな若干冴えないメッシのパルクデビューではあったが、エキサイティングだったのは試合が始まる前のウォームアップだ。
パルク・デ・プランスでネイマールとメッシがコンビを組んでパス練習をしている光景からして、なんだか現実ではないような感じがしたが、その後の鳥かご練習では、真ん中に入ったメッシの、息をするかの様にボールを扱う足技に惚れ惚れさせられた。現地観戦する人たちにとっては、このウォームアップシーンが見られることも試合前のうれしいオマケ体験になるのだろう。
ポチェッティーノ監督は、メッシ、ムバッペ、ネイマールの攻撃トリオのコンビネーションは「徐々に良くなっている」と語り、自分が理想とする戦術を落とし込もうと日々、試行錯誤していると話している。実際、試合を重ねるごとに噛み合っていくだろうが、ひとまず9月28日のマンチェスターC戦でどのようなゲームをするかが、withメッシの新生PSGの最初の大きな課題だ。
メッシにとっては、新天地への移籍に伴う興奮状態が徐々に落ち着き、長年住み慣れた場所や環境を懐かしむ気持ちも湧いてくる頃だと思う。頭では頑張る気でいても心が黄昏れる、ということもあるような気もするが、モチベーションを失わずにいてくれることを祈りたい。
Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。