ミランのMFサンドロ・トナーリが好調だ。長短の正確なパスを持ち味とすることにより“ピルロ2世”と称されるが、一方でタフな守備をも厭わないたくましさも兼ね備える、イタリアU-21代表の中心選手である。
データが示す確かな成長
今季に入ってからは、フランク・ケシエとイスマエル・ベナセルらがそれぞれフルに使えないチーム事情の中で、開幕からの3試合で出色のパフォーマンスを披露。第2節カリアリ戦で直接FKを決めると、第3節のラツィオ戦でも大活躍を演じた。ルイス・アルベルトにセルゲイ・ミリンコビッチ・サビッチ、ルーカス・レイバと名手がそろうラツィオの中盤を前に、激しいチェックで相手の攻撃の目をことごとく潰しながら、的確なパスによるゲームメイクやドリブルでの推進など、多彩なプレーで攻撃を演出した。
ブレシア時代は19歳ながらチームの軸となって活躍した。これが評価され、2020年夏にミランに移籍。もっとも、1年目の公式戦出場は37試合、2023分間の出場に留まり、パフォーマンス自体も決して目覚ましいものではなかった。ところが買い取りオプションを行使されて完全移籍を果たした今季は、あらゆるスタッツが向上した。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によれば、ポジティブなパスの本数は1試合平均24.7本から37.7本へと増え、ボールの回収は1試合平均3回から5回に、さらにインターセプトの成功も1試合平均は1.33。昨季の平均は1を上回らなかったが、進歩を見せている。
ミランに順応し、心身ともに充実
昨季はフラストレーションからのファウルも多く、厳しい評価をするサポーターも存在していた。だが現在、人気は急上昇中。体を張ってプレーをする様子に加え、クラブの経済的状況を理解して年俸を下げたことでも賞賛されている。
かつてミランでレジスタを務めたデメトリオ・アルベルティーニ氏は、ビッグクラブでのプレッシャーに慣れてきたという精神面での成熟を指摘。『コリエレ・デッラ・セーラ』の取材に対し「もともとタレント性があったところに、性格面でも成長した。ミランはミランで、サン・シーロはサン・シーロ。慣れるまでには1年の時間が必要だったということだろう」と語った。
また、かつてミランに所属した経験のあるアルベルト・アクイラーニ氏(現フィオレンティーナ・プリマベーラ監督)は『トゥットスポルト』に対し「クラブが彼への信頼を捨てず、1年間の適応期間の後も信じ続けたことが良かった。ブレシアからミランへ来るとプレッシャーも違うし、活躍するのは簡単なことではないからね」と語った。
もちろん、ステファーノ・ピオーリ監督はトナーリに全幅の信頼を寄せる。「サンドロが成長しているのはすべての人の目に明らかなこと。あらゆる能力を備えた選手で、今はそのクオリティが発揮されている。非常に真面目な青年であり、自分が競争の中に身を置いていることを自覚し、努力している」と目を細めている。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。