英メディア界で進む女性解説者の活躍。“紅一点ではない”識者たちの、アンチも黙る実力と情熱
日本ではまだなかなか見られない光景である。イングランドでは昨今、プレミアリーグや代表戦など男子サッカーの中継や関連番組において、女性の解説者、司会者らが続々と起用され、かつ好評を博しているそうだ。“サッカーは男のスポーツ”というイメージがここ数年で然るべき方向へと変わってきた「サッカーの母国」のメディア事情を、ロンドン在住20年以上の山中忍さんが伝える。
BBC名物番組も史上初の女性司会で一新
プレミアリーグの新シーズンが幕を開け、テレビのサッカー番組もイギリス庶民の日常生活に戻ってきた。その国内で、少なからず話題となった出来事が1つ。土曜昼時の定番『フットボール・フォーカス』で、元イングランド女子代表DFのアレックス・スコット(Alex Scott)が司会者デビューを飾ったのだ。
同じ『BBC』のテレビ番組としては、プレミアリーグのダイジェストを扱う『マッチ・オブ・ザ・デー』ほど、国外では知られていないかもしれない。だが、このプレビュー中心の番組も、その前身は1974年放送開始という由緒ある番組。筆者が現地で観るようになった90年代には、ギャリー・リネカーが解説者から昇格して司会を務めていた。
『マッチ・オブ・ザ・デー』へと出世したリネカーの後任4番手に当たるスコットは、番組史上初の女性司会者だ。今季プレミア開幕節の8月14日にはマイカ・リチャーズとディオン・ダブリン、翌週21日にはアシュリー・ウィリアムズとマーティン・キーオンをゲスト解説者として、1時間番組の進行役を務めていた。
現役時代にはアーセナルの1軍で計12年間を過ごし、アメリカでもプレーした36歳は、男女の別を問わず、テレビで最も頻繁に目にする識者の1人となっている。昨季は『スカイスポーツ』の試合中継や『BBC』のハイライト番組の解説者として過密日程をこなし、シーズン終了後のEURO2020でも解説者としてマイクを握った。その“守備範囲”はサッカーにとどまらず、東京オリンピックの中継番組でも『BBC』のスタジオで共同司会を務めた夏を経て、本職のサッカー関連でメイン司会も務める今季を迎えている。
今日、女性解説の試合中継が当たり前に
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。