2020-21シーズンのメキシコリーグは後期リーグのリギージャ(リーグ戦上位4チームと、5位から12位までの8チームによるプレーオフを勝ち抜いた4チーム、合計8チームでのノックアウトステージ)が終了し、クルス・アスルがサントス・ラグーナとの決勝を2戦合計2-1のスコアで制して通算9度目の優勝を飾った。同クラブにとって実に23年半ぶりの戴冠は、様々なトピックで彩られることとなった。
50万円のチケットも販売
メキシコでは4月半ば頃からコロナワクチン接種のスピードが上がり、商業やスポーツの活動も少しずつ規制が緩和されていった。その中で行われたリギージャ決勝はまず、サントス・ラグーナのホームで行われた。この試合は当初、収容人数の50パーセントの観客を入れて実施される予定だったが、試合の3日前に70パーセントへと増加された。
同クラブが本拠を置くコアウイラ州は感染者数が少なく、また重症患者用の病床も十分に確保されているということで、規制が緩和されたのである。当日は約1万4500人の観客が見守る中、クルス・アスルがルイス・ロモのゴールで1-0と先勝した。
続く2戦目は首都メキシコシティでの開催。クルス・アスルは新スタジアムの建設が進んでいないため、現在はエスタディオ・アステカを間借りしている。メキシコシティにおける屋外スポーツイベントの動員可能人数は、収容人数の25パーセント。約8万7000人を収容するエスタディオ・アステカの場合、2万2000人弱が入場可能となり、チケットは一瞬で完売となった。転売ヤーによるチケット買い占めも横行したようだ。
また、VIP用ボックス席のオーナーと利用希望者をマッチングさせるサイト「Stadibox」では、6人用のボックス席が9万メキシコペソ(約50万円)という高額で貸し出されたという。これはリギージャ決勝のチケットの歴代最高額だ。
約2万1000人が動員されて“ほぼ満員状態”で行われたこの試合は、前半にサントス・ラグーナが先制したが、後半開始早々にクルス・アスルが同点に追いつき、1-1で歓喜のタイムアップを迎えた。
8万人が集結。歌い、踊り、酒を飲み…
スタジアムに入ることができた観衆は2万人強だったが、その後、レフォルマ通りにあるアンヘル独立記念塔周辺には8万人ものクルス・アスルファンが集結した。ソーシャルディスタンスなど守られるはずもなく、ノーマスクで歌い踊り、ビールをがぶ飲みするファンの姿が多く見られる状況に。
これにはメキシコシティのクラウディア・シェインバウム市長も「クルス・アスルとすべてのファンにおめでとうと言いたい」としつつ「ファンの集会がコロナの感染状況にどんな影響を与えるのか、見守らなければならない」と不安を吐露した。
また、試合翌日にはアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領が定例会見でクルス・アスルの優勝を祝福する一幕もあった。大統領は「どちらのゴールも良かった。ファンはみんな幸せそうだった」と試合の感想を述べつつ、ベーブ・ルースの「諦めないやつには勝てない」という言葉を引用して23年間半の苦境に耐えたクルス・アスルを称え、「これで呪縛は解けた」と結んだ。
Photo: Getty Images
Profile
池田 敏明
長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。