去る3月17日、スポーツ仲裁裁判所(TAS)は2020シーズンのペルー1部リーグに関する1つの判決を下した。カルロス・ステインというクラブから、度重なる選手への給与未払いを理由に勝ち点2を剥奪したのである。これにより、ペルー1部リーグでは2021年のリーグ開幕直後に昇降格するクラブが出るという事態が発生した。
戦わずして“昇格”に成功
事の発端は、リーグ優勝23回を誇る名門アリアンサ・リマがTASに訴えたことだった。アリアンサ・リマは2020シーズン、年間を通じて6勝6分け14敗という不振に見舞われ、勝ち点26の18位で2部降格となってしまった。
しかし、降格が決まるとすぐに、カルロス・ステインの給与未払い問題についてTASに提訴した。同クラブの最終順位は17位で、勝ち点は27。ギリギリでの1部残留を達成しており、アリアンサ・リマとしては何とかして順位をひっくり返したい相手だった。
検証の末、TASはリーグの規則違反に当たるとして、カルロス・ステインの勝ち点を2ポイント剥奪した。これで同クラブの勝ち点は25となり、年間順位も19位に後退。2部降格が決定し、17位に浮上したアリアンサ・リマは降格圏から脱する形となった。
アリアンサ・リマの降格が決まったのは2020年11月28日。彼らはそこからわずか4カ月弱で、2部リーグを戦うことなく“昇格”を勝ち取ったのである。
ちなみに、TASの判決が出た時点で2021シーズンはすでに開幕しており、カルロス・ステインはアリアンサ・アトレティコと対戦してスコアレスドローに終わっていた。当然、この試合は無効となり、アリアンサ・リマ対アリアンサ・アトレティコは後日、改めて行われることとなった。
年俸を工面し英雄を獲得
1部に舞い戻ったアリアンサ・リマは3月23日、ペルー代表FWジェフェルソン・ファルファンの獲得を発表した。2022年6月までの2年契約で、年俸60万ドル(約6650万円)はペルーリーグ史上最高額だという。
ファルファンはアリアンサ・リマのセカンドチームから2001年7月にトップデビューを飾り、2003年には13ゴールを挙げるなど急成長を見せた。2004年6月にPSVに移籍し、シャルケで活躍したことはご存じの方も多いはずだ。
直近ではロコモティフ・モスクワに所属していたが、膝のケガなどもあって2000年8月に契約が切れ、その後はペルーに戻ってリハビリをしながら新天地を探していた。
MLSやメキシコ、アルゼンチンのクラブに移籍する噂もある中、最終的には約17年ぶりの古巣帰還が実現した。その際にネックとなったのが60万ドルの年俸だった。
欧州の相場と比較するとそれほど高額ではないが、ペルーのクラブは新型コロナウイルスの影響もあってどこも財政難に苦しんでいる。名門のアリアンサ・リマも例外ではなく、クラブ単独で60万ドルを負担するのは不可能だった。
そこで、月額換算5万ドルのうち3万ドルをアリアンサ・リマが、残りの2万ドルをメインスポンサーのバンコ・ピチンチャが負担することで、ようやく資金を捻出できたのである。
ファルファン本人はすでにケガも癒え、チームに合流しているが、順応にはもう少し時間が必要ということで、3月30日のクスコFC戦(2-2の引き分け)には出場しなかった。現在は4月6日に行われるデポルティーボ・ムニシパル戦に向けて準備を進めているという。
Photo: Getty Images
Profile
池田 敏明
長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。