メキシコでは2021年6月、連邦下院議員選挙と地方選挙が行われる。この大イベントに向けて各政党は2020年末から候補者選びを進めているのだが、かつてメキシコ代表で活躍した何人かの元選手が政治の世界に転身しそうな気配を見せている。
2018年にはブランコが知事に当選
この動きを助長しているのは、2006年に結成された「社会結集党(略称PES)」という政党だ。PESは2018年の総選挙の際、クアウテモク・ブランコを擁立してモレロス州知事選挙に立候補させ、見事に当選させた実績を持っている。
ブランコはメキシコ代表で120試合39得点の実績を持ち、クラブ・アメリカなどでも活躍した。ボールを両足で挟んでジャンプする「カニ挟みフェイント」でも人気を博した名プレーヤーだ。
2015年に現役を退いた後、同じモレロス州クエルナバカ市の市長選挙に立候補して当選し、同市の市長を務めていた。PESのサポートを受けた2018年の知事選挙では52%以上の票を獲得し、見事に知事の座に就くこととなった。
これに味を占めたのかどうかはわからないが、PESは今回の選挙に向けて元選手に次々に声を掛け、立候補を打診している。
個性派GKらにも出馬を要請
まずはアドルフォ・バウティスタ。奇抜な髪型や自己中心的な言動で注目を浴び、グアダラハラ時代は100番、ハグアレスでは1番とFWらしからぬ背番号を背負ってプレーした。すでに選挙への立候補者として登録されており、下院議員選挙に出馬する予定だという。
出馬すれば目玉候補の1人になると関心を集めるのがホルヘ・カンポスだ。身長168cmと非常に小柄ながら抜群の身体能力を誇り、長きにわたって代表の正GKを務めた。自らデザインした派手なウェアでプレーする姿や、FWもこなす“二刀流選手”としても注目を集めた。
PESのウーゴ・エリク・フローレス党首は「(カンポスの出身地である)ゲレーロ州アカプルコの市長選に立候補するのか、ゲレーロ州知事選挙になるのか、下院議員選挙になるのかはまだ決まっていない」と語っているが、カンポス自身は「出馬するなら、もちろん勝つために戦う」と意欲を見せている。
もう1人、PESが関心を示しているのがアンヘル・レイナ。クラブ・アメリカやモンテレイ、グアダラハラなど国内のビッグクラブでプレーし、メキシコ代表でも15試合2得点の実績を持つ。2019年にベラクルスでプレーした後、2020年は所属クラブなしの状態だったが、どうやら36歳で現役を引退し、新たな道に進むことになりそうだ。
出馬する人間に知名度があれば選挙でも当選はしやすくなる。今回この3人が立候補し、当選すれば、現役引退後に政治の道へと進む選手はさらに増えるのではないだろうか。
Photo: Getty Images
Profile
池田 敏明
長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。